【道標 経営のヒント 188】地域で引き継がれる職人技 佐々山建築設計社長 佐々山茂 

  • 2019年5月23日

 富山県魚津市の旅館で、ワイン好きの社長がカリフォルニアのナパバレーに行ったのがきっかけで、お客さまがワインを満喫する食事処を作ることになった。

 空けた記念のワインボトルを大きな壁面棚に飾り、バックライトで照らしてリピーターとしての証拠になる仕掛け。照明器具は文化財保存の仕事をしている知り合いに頼んで大正末ごろの器具を再生し、足りない分は高岡銅器で知られた鋳物工場で新しく作った。鋳物の枠に半円ガラスの組み合わせのシーリングライトは既製品にはない存在感がある。

 木製ドアの引き手は葡萄蔓(ぶどうつる)をかたどりアイアンワークで特注し、入り口正面にも葡萄蔓のアイアンワークのスクリーンでお客さまを迎える。椅子は100年以上の歴史がある曲木家具のメーカーからハイバックチェアを選んだ。テーブルは長さ5メートルほど必要で作ることにした。

 高岡市にある銘木店は明治初めの創業らしい町屋の家構えで歴史を感じさせる。倉庫には耳付きの板が所狭しと積んである。その中に10年前に仕入れたという5メートルほどの欅(けやき)の板が立て掛けてあった。根に近いところの中杢(なかもく)で幅は少し狭いがテーブルにはうってつけの形状で、私に使ってと訴えかけてきた。

 地域で伝統産業を守る活動をしている息子さんが仕事を手伝い、後継者ができた社長は笑顔で自慢の銘木をいろいろと見せてくれた。その欅の板を黒部市の創業70年の家具工場に持ち込む。社長は現代の名工で、息子さんは一級建築士で名刺には主任研究員とあり活動的。テーブル幅が足りないので中杢の目に沿ってS字状に二つに割り、間にガラスを入れる面倒な加工を頼むと面白がってくれた。200キロを超える板は、反りもあり取り扱いが難しいが見事な仕上がりとなった。

 木の根っ子をテーブルの脚にするので旅館にあった木の根のオブジェを持ち込んで加工してもらった。銘木を使った自社製造が売りとあって製作途中の家具につい見とれてしまう。

 テーブル中央のガラスに葡萄蔓のエッチング加工を頼んだ墨田区のガラス工房もガラス加工では老舗で名が知られている。50平方メートル程度の改修工事だが、その道のプロと言える技を持った人たちが何人も携わった。いずれも半世紀以上仕事を続けていて後継者が育っているのが心強い。地域で頑張っている姿は旅館にも通じ、都市的な経済活動とは一味違うが、長く続け技術や文化を継承することで社会の役に立ち、それが企業価値に結び付く姿に強い感銘を受けた。

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