【道標 経営のヒント 185】寮で、猫、飼ってもいいですか 九州国際大学教授 福島規子


 新入社員のみなさん。入社式から半月がたちました。職場には慣れましたか。体調は崩していませんか。しばらくすると10連休のゴールデンウイークがやってきます。怒濤の10日間が過ぎれば館内も少し落ち着いてきます。まずは、あと1カ月。体調を整えて元気に乗り切りましょう。

 さて、入社前、某旅館に新入社員から問い合わせがありました。

 「寮で猫を飼いたいのですがいいですか」

 寮の規則ではペットは禁止。マンションのように防音壁が完備されていない建物ではペットの鳴き声が響きますし、ニオイや衛生面からも室内でペットを飼育することは一般的にも禁止されています。また、猫のように室内を動き回る小動物の場合は体毛が室内に散らばり、それが衣服に付着し、食べ物を扱う現場に持ち込まれてしまうこともあります。

 英ケンブリッジ大学の研究者らは、猫の鱗屑(りんせつ、皮膚や毛から剥げ落ちた角質細胞の微落片)のタンパク質がバクテリアの一種と接触することで猫アレルギーの原因が生み出されることを突き止めました。この物質がくしゃみや咳、目の腫れやかゆみといった風邪の症状に似たアレルギー反応や、時には、呼吸困難なども引き起こすといいます。

 特に、畳の上に着物を広げて身支度を整える客室係の場合、着物には猫の体毛だけではなく目に見えない鱗屑も一緒に付着してしまう可能性があります。着物に付いた猫の体毛が料理に入れば異物混入となりますし、それを口にしたお客さまがアレルギー反応を発症することもあり得ます。最近では、予約を受ける際に食物以外のアレルギー(例えば、猫アレルギー)について尋ねる旅館もあります。

 つまり、旅館の従業員が自室でペットを飼うことは、リスクを伴う行為であるともいえます。

 しかし一方で、感情労働と呼ばれる接客業はストレスがたまる仕事だけに、働く人たちが小動物に癒やしを求める気持ちも分からないではありません。働き手のことを重視する働き方改革が推進される中、頭ごなしに「ペット禁止」と決めつけるのも気が引けます。

 そこで、前述した旅館では、会社として二つの条件を提示しました。一つは寮には入らず、ペットが飼育できる住居を自分で探し自費で引っ越すこと。もう一つは制服(着物)の着替えは会社の更衣室で行い、猫の体毛等に十分注意することです。

 リスクマネジメントの観点から言えば、十分な対応とは言い難いですが、今後、議論を重ねることで業界としての方向性も定まってくると思います。

 ペットを飼いたいと思ったら、まずは、会社の規定を確認し、その後、担当部署に相談してみましょう。くれぐれも「バレなければいい」とこっそりペットを持ち込むことだけはしないように。

 
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