【道標 経営のヒント 172】コストと発注先 佐々山建築設計社長 佐々山茂


 今月、長野県の旅館で34室の客室改修が3カ月の工期で予定通り竣工した。営業しながら、限られた工期と予算の中で当初の予定通りに工事が進み、クライアントも大変喜んだ。

 一方、秋に自宅吹き抜けの天窓を取り換えた時のこと。当初、工程は足場1日、取り付け2日、足場解体1日の計4日であった。足場を掛けた次の日に天窓を取り付けに来た職人さんがこの足場では工事ができないと言って何もしないで帰った。1週間後にやっと足場を直したと思ったら、今度は天窓の職人さんの手配がつかない。すべて後手に回り、完成までに3週間かかった。

 この二つの工事を比較するのは無理があるが、現場監督の力量が生産性と品質に大きく影響することが分かる。段取りの良い現場監督なら厳しくても職人が付いてくる。

 建設業は労務コストが占める割合が大きく、生産性が低くては生きていけない。設計業務の中でコスト管理と施工業者の選定は特に難しい。設計は自分が頑張れば良いが、この二つは相手があることで自分の思い通りには進まない。

 旅館の採算からかけられるコストと施工業者がかかるコストとは開きが大きく、その間の調整が必要になる。仮設や解体など最終的に建物として残らない費用は減らしたい。工業製品の仕上げ材などはどこでも同じだが、木工事は地域差が大きい。在来工法で柱梁を見せた木の空間を造りたいと思っても、今はプレカットと大壁でないとコスト的に合わないことが多くなった。

 先日、特許工法で耐震補強を設計したら予算に合わず困っているという話を聞いたが、コストと発注先、地域性を考えて設計しないとプロジェクトが進まない。

 物造りには職人が欠かせない。その職人の代表格である大工の棟梁が高齢化して、あと10年もしたらどうなるか心配だ。設備工事の職人もかなり切迫していて、工事をする手がなければ施工業者も受注できない。杭は3カ月待ち、鉄骨は1年待ちと言われる時に、1から2カ月で施工態勢を整えることは難しく、なるべく早めに施工業者を決める段取りをしているが、結局はいつもギリギリで迷惑をかけている。

 建設業者は平成12年のピークから20%以上減少していて、何社も集めて見積もり合わせをする時代ではなくなった。旅館は営業しながらの工事が多く、きめ細かい工程管理ができることが前提になると、それができる施工業者も限られる。クライアント、施工業者、設計者の3者が協調して生産性の高い仕事をしたいと常々思う。

 
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