【道標 経営のヒント 144】設計という仕事の価値 佐々山茂


 旅館の設計を始めて45年になる。この間、設計だけで収入を得ていたことになり、大変ありがたいと感謝している。

 設計フィーの評価は難しいもので、クライアントはまだ形になっていない設計というサービスに対価を払う。電気器具や洋服などを買う場合は現物が目の前にあり、その機能やデザインを気に入ってから購入できるが、設計はまだ見えぬものに、洋服などと違って2桁も3桁も大きな金額を支払う。その上、設計に基づいて設計料の10倍もの建築にお金を使うことになる。設計料が1千万円なら最終的には1億円以上のお金を使うことになり、その大金を設計者に預けることになる。

 クライアントはフィーに見合った仕事をしてくれると信用して設計契約を結ぶ。この段階では設計者の実績に基づいた信用しか頼るものがない。設計者としても経営に関わる大金を預かるわけで責任は重大である。長くお付き合いしているクライアントは信頼関係があり安心できると思うが、初めてのクライアントはこの設計者に大金を預けて大丈夫だろうかと思うのは当然だ。今も新しいクライアントと都内で旅館の計画を進めているが、時間がたつにつれ信頼関係ができるのがうれしい。

 設計者は与えられた条件を、法的に満足するようにプランをまとめ、建築の空間を設計するのは当たり前で、期待される以上のものを目指すのがプロだ。建築は建てた時から年々古くなり商品価値が落ちるというが、景観と空間の関係がしっかりしていれば簡単に古くならず長くお客を引きつける。40年以上設計に携わっていると思考回路は設計が中心になり、視線を通して課題が与えられると自然に手と頭が連動して動き出す。今手掛けている物件でもクライアントが気付かないちょっとしたことで施設が一変する提案でクライアントの目が変わる。

 線1本、窓一つで周りの景観との関係を強めることで空間が変わるから面白い。敷地を見ていてそこに力を感じると法的に屋上増築ができないといわれていたところに増築したり、法規制で建築できない敷地に造ったりとウルトラCで建築したこともある。

 クライアントが設計フィーに納得するのは、出来上がった建築にクライアントが感動し、お客さまから評価された時で、つくづく設計に携わって良かったと感じる。これからも設計者としてお客さまを引きつける旅館建築を目指したい。

 
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