【道標 経営のヒント 137】新入社員のための基礎知識 福島規子


 今回は「ホテル」と「旅館」の違いについてのお話です。両者とも業種は宿泊業ですが、業態は旅館営業とホテル営業に分類されます。業種と業態。言葉は似ていますが意味は違います。

 ざっくり言えば業種とは扱う商品・サービスといった「売るモノによる分類」で、業態とはそれらをどのように売るのかといった「売り方による分類」を指します。ホテルも旅館も宿泊客室を販売するという点では宿泊業ですが、客室タイプやサービスの仕方が異なることから両者は別業態とされます。たとえば、旅館の客室は畳敷きの和室ですから定員(1部屋に泊まれる最大人数)内であれば何人でも宿泊することができます。一方、ホテルは、原則、ベッド数によって宿泊人数が決まるため、1室あたりの宿泊人数は1名もしくは2名となります。

 ところで、日本国内のホテルと旅館では、どちらの軒数が多いと思いますか。やはり、町なかで目につくことが多いホテルでしょうか。

 正解は、旅館です。旅館軒数の方がホテルよりも圧倒的に多いのです。ホテル軒数1万101軒に対し、旅館は4倍に近い3万9489軒(平成29年度厚労省調べ)です。しかし、客室数を比べるとホテルの客室数86万9810室に対して、旅館は69万1962室とホテルよりも20万室も少ないのです。畳敷きの和室とベッドだけの洋室では客室面積が違いますから、ホテルの方が客室数を確保しやすいと考えられます。

 また、旅館の和室には寛ぐ、食事をする、寝るといった三つの複合的機能がありますが、ホテルの客室には、寝るといった単一機能しかありません。ホテルでは旅館のように季節に合わせて設えを変えることもありません。さらに、旅館は客室を室料+食事代の1泊2食料金で販売するのに対し、ホテルは室料のみで販売するなど売り方も違います。旅館には接客係がいますがホテルにはいませんし、旅館には館内着としての浴衣がありますがホテルにはありません。このように旅館とホテルは客室タイプや販売方法だけではなく提供するサービスも全く異なる別業態と言えるのです。

 ところが、平成29年11月、政府は特別国会に「ホテル営業」と「旅館営業」に区別されている営業種別を「旅館・ホテル営業」と統合するなどの一部改正を盛り込んで旅館業法改正法案を提出したのです。

 冒頭よりホテルと旅館の違いを縷々(るる)述べてきたものの、結局のところ旅館業法改正法が通過し、両者が一括りにされてしまうと日本の伝統を引き継いできた宿文化そのものが、衰退してしまう危険性もあります。また、今年6月には民泊新法(住宅宿泊事業法)が施行されます。

 ひとりでも多くのお客さまにホテルでも民泊でもなく「旅館」を選んでもらうためにはどうすればよいか。皆さんの挑戦は始まったばかりです。

 
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