【道標 経営のヒント102】出会いが成功させてくれる 石井敏子


 行燈旅館のお客さまは大半が外国人旅行者だ。入れ代わり立ち代わり、世界中から楽しいお客さまが来る。6月、特に印象深いお客はスイスから来た学生さん、ニール君とアンドレア君だ。チェックインは私が担当した。

 初めて到着した時、日本人のお連れがいて、2人について話を聞くことができた。お連れの彼はスイス在住時、ニール君のお父さまにお世話になった縁で、今回彼らの到着時の日本でのサポートを頼まれたそうだ。それぞれのお父さまは旅費を出す代わりに、「日本文化をしっかり勉強してくること」という条件を出した。

 彼いわく、スイスの家庭はお金に対して厳格で、お金を出す代わりに必ずそれに見合う対価を求めるそうだ。彼らは高校を卒業したばかり、親へのレポートもあるので毎日が日本文化の勉強会である。

 行燈旅館では茶道と習字講習を体験してもらった。お父さまが出したのは旅費のみだった。元より学生の貧乏旅行である。旅行中の十分なお金を持ち合わせていない彼らからのコンシェルジェへの要求も手厳しい。毎日計画を立てるのに相談を受けた。その中で一つ困ったことがあった。「空手を体験したい」と言うのだ。

 近所の知り合いに電話したが、あいにくすでに道場を退会した後だった。そこで東京都内にある空手道場に数件電話したが、日本語の分からない外国人には通訳が必要なこと、かなりレッスン料が高いこと、道場着も必要とのことだった。彼らの真剣な様子に「叶えてあげたい」と言う気持ちが強かったが、高額な料金では諦めなくてはならなかった。私にとっても残念なことだった。

 今回改めて、日本の一般家庭の両親だったらここまで要求して、果たしてこの彼らのようにそれに応えていける子どもがどれだけいるだろうかと考えた。

 毎朝真剣な眼差しで宿を出ていく彼らの姿を見ていると、スイスのご両親の育て方が見えるような気がした。

 私にできる事は彼らの学ぶ姿を宿のホームページの中のゲストブックにアップして、スイスのご両親が見てくれたらと願うことだけだ。彼らもきっと喜んでくれるだろう。

 帰り際に彼らから、「ここに泊まれて良かった。あいがとうございました」と言う感謝の言葉をもらい本当にうれしかった。いつかきっと、今よりもっと素敵な男性になっているだろうと想像すると楽しくなった。

 お客さまとの出会いは私の視野を広げ、私を成長させてくれる。今回は新しいことを体験することへの貪欲さを、あらためて年若いゲストから学ばせてもらった。生きて行くうえで、幾つになっても忘れてはいけないことだ。

 
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