スタッフの定着率を向上させるためには、単にワークライフバランスを重視し、働きやすい環境を整えるだけでは不十分である。ある宿泊施設では、建物の新しさや事務所の清潔さ、給与や有給休暇取得率の高さ、残業の少なさといった条件に恵まれていたにもかかわらず、離職率が高いという問題を抱えていた。入社したスタッフの半数が1年以内に退職し、3年で全員が退職するという状況が続いていたのである。
退職の原因を探るために面談を行ったところ、「フロント業務は1年で一通り習得でき、その後は日常業務の繰り返しでマンネリ化している」「マルチジョブという名目でさまざまな業務を担当しているが、目的が明確でなく、雑用ばかりさせられているように感じる」といった声が挙がった。
仕事のマンネリ化は、特に単独経営の宿泊施設にとって深刻な課題である。チェーン系施設のように、他店舗への異動や昇進の機会を提供するのが難しいため、マンネリ化を防ぐための対策が限られているからだ。しかし、単独経営の宿泊施設でも、取り組める対策はいくつかある。例えば、定期的なジョブローテーションや外部研修への参加、業務改善プロジェクトへの参画、人事評価制度の見直しなどが考えられる。会社として成長志向がある場合には、増改築プロジェクトや新規事業のメンバーに抜てきすることも効果的である。最初は頼りないと感じていたスタッフでも、会社の発展と共に頼もしいリーダーへと成長することが期待できる。
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