前回に引き続き、老朽化する旅館・ホテルが取るべき指針について、ケース分けしながら説明しよう。取るべき指針を決定する要素は、(1)今後の業績見通し(2)借入金残高(3)建物の耐用年数―である。
今後の業績見通しは、今後十数年にわたって安定的な償却前利益を獲得する見込みがあり、商品力維持に必要な再投資、借り入れ返済が行えるかどうかを示す。借入金残高は、借入金に対するキャッシュフローの割合(償還年数)が現実的な範囲であるかどうかを示す。建物の耐用年数は、商品価値を維持しながら、あと何年営業できるかを示す。
3、業績良好で借り入れが少ないが、耐用年数の限界が近い
このような状況にある旅館・ホテルの場合、選択肢はさまざまだ。事業を継続するならば、既存の躯体を生かして大規模改装したり、更地から建て替えたりという選択肢がある。事業を継続しないならば、業態転換を図ったり、第三者へ売却したりという選択肢を検討することになる。いずれの選択肢を取るにしても財務状況が激変するので慎重に判断しよう。
大規模改装や建て替えするならば、借り入れが一気に増えることになる。これまでは、少ない返済と償却負担によって潤沢なキャッシュフローを生み出すことができた。
大規模投資後は売り上げの数倍の借り入れを20数年かけて返済していくことになるため、内部留保を思うように蓄積できなくなる可能性がある。長期間にわたって安定的な集客が見込める地域か、経営者本人や後継者の事業意欲が維持できるかよく検討しよう。
業態転換の具体的な選択肢として、旅館からビジネスホテルへの転換というのは昔から良くあるケースだが、立地や設備、客室の仕様が顧客ニーズに合ったものかよく調査しよう。大手チェーンのデザインや仕様をそのまま真似ても、集客に成功するとは限らない。また、1棟全体を旅館・ホテルにするのではなく、オフィス、商業テナント、クリニックなどを組み合わせた複合ビルの開発を検討してみるのも良い。
大規模改装や建て替え、業態転換、売却それぞれのメリット、デメリットを整理し、将来シミュレーションを作成した上で最終的にどの選択肢にするか判断すると良いだろう。
(アルファコンサルティング代表取締役)