【観国之光 323】五輪海外客断念 逆風だが気持ち切り替え 本社論説委員 内井高弘


多くの外国人が訪れていた東京・浅草。このにぎわいが戻るのはいつになるのだろうか

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、海外から訪れる東京五輪・パラリンピック(オリパラ)の一般観客の受け入れ見送りが20日、決まった。訪日外国人(インバウンド)の増加に期待していた観光関係者からは落胆の声が漏れる。

 政府、大会組織委員会、東京都、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会の5者が合意した。海外観客の受け入れ見送りで、消費は1500億から2千億円程度失われるとの見方もあり、影響は各方面に及ぶ。国内観光客数の制限による影響もまた懸念される。

 この大会をインバウンド需要回復の足掛かりにし、経済活性化につなげようとした政府の思惑は外れ、「人類がコロナに打ち勝った証しとして、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたい」と述べていた菅義偉首相も複雑な胸中だろう。海外客がいなくなり、今後どうこの理念を実現していくのだろうか。

 コロナ禍になかなか収束の兆しがみえない中、国民の五輪への視線は厳しく冷ややかで、最近では女性蔑視発言やタレントの容姿を侮辱するような問題も起き、どうにも盛り上がらない。

 観光業界は「五輪が本格的なインバウンド再開のきっかけになれば」と期待した時期もあったが、長引くコロナ禍でだんだんとしぼみ、今回の決定である。インバウンドは当面ないものと考え、気持ちを切り替えるべきだ(いや、すでに切り替えているのだろう)。

 大会に向けて客室の改装などインバウンド受け入れ態勢の充実を図り、おもてなしに磨きをかけてきた事業者にとっては、成果を出せず、期待した収益も見込めなくなっただけに死活問題であろう。準備してきたことを次の機会につなげてほしいと願うばかりだ。

 国内客をどう制限するのかは4月中に決まる見通しだ。無観客での開催も取り沙汰されているが、現状を考えるとフルに入れるのは難しいだろう。となれば、地方を楽しむ国内客が増えるかもしれない。

 昨年の訪日外国人数は411万5900人で、前年比87.1%の大幅減。東日本大震災があった11年の621万人も下回り、1998年の410万人以来、実に22年ぶりの低水準となった。

 政府は東京オリパラが開催されるはずだった20年に4千万人の目標を掲げていたが、コロナの流行で未達成となった。21年も低空飛行が続きそうだ。

 インバウンド依存は危ういとずっと言われてきた。コロナ禍で改めてそれが証明された。いずれインバウンドは回復するだろうが、その時には同じ轍(てつ)を踏まないよう、選択肢を多くしておくべきだ。   


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