【観国之光 220】文化財と観光 法改正で活用進むか 本社論説委員 内井高弘


重文に指定されている群馬県玉村町の玉村八幡宮。法改正でこうした文化財が適切に観光振興に生かされることが期待される

 歴史的建造物や史跡、美術品など地域の文化財の活用を後押しする改正文化財保護法が6月1日、参院本会議で可決、成立した。来年4月1日から施行される。

 保護中心から保護と活用の両立への転換といえ、観光振興にとっても大きな意味を持つ。なぜなら、文化財をまちづくりに積極的に活用していこうとの狙いがあるからだ。

 ちなみに、文化財保護法は1950年、議員立法によって制定された。契機となったのは法隆寺金堂壁画の焼損だ。

 改正の背景には訪日外国人観光客を対象とした観光資源として、文化財の活用を進める「観光立国」戦略がある。観光に携わるものとしては歓迎だが、国の歴史であり、国民の財産ともいえる文化財が単なる観光資源として利用されることを良しとしない人もいる。

 文化財の価値が話題性や集客力で評価されることで、文化財の優劣が生じるのはいかがなものかという考えだ。そうした事態が生じないよう、地方の文化審議会などが厳しくチェックする必要があるだろう。

 今回の法改正では、都道府県が文化財の保存・活用に関する総合的な施策の大綱を策定できるようにした。市町村は大綱を受け、行政と学識関係者、文化財所有者、商工会、観光関係団体などが協議し、保存・活用の総合計画を作ることが可能になった。

 計画が国の認定を受けると、(1)国の登録文化財とすべき物件を市町村が提案できる(2)現状変更の許可など文化庁長官の権限に属する事務の一部について、都道府県・市のみならず認定町村でも行える―ようになる。

 特に、(2)では史跡に仮設の案内状を設置したり、電線を地中化し景観を良くしたりするような変更ができたりする。

 併せて、地方教育行政法も改正。教育委員会が所管する文化財保護の事務を、条例により首長部局への移管も可能にした。観光やまちづくりへの活用を円滑に進めることが狙い。

 観光資源となることで例えば、落書きなどが横行し、文化財としての価値が著しく損なわれるケースも出てくるかもしれない。寺社での落書きがニュースでよく取り上げられる。このため、改正法では落書きなどで文化財を傷つけた場合の罰金を最高30万円から100万円に引き上げることも盛り込んでいる。

 国は、過疎化・少子高齢化が進み、文化財の消失や所有者の代替わりなどで散逸する恐れがあるとして、地域社会総がかりで継承に取り組んでいくことが必要との立場だ。法改正の趣旨を踏まえ、文化財が末永く保存、活用されていくことを願う。

【内井高弘】


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