【観光立国・その夢と現実 30】旅館ホテルと耐震問題 小原健史

  • 2022年9月16日

 思えばわが国は地震や津波、台風や豪雨と天災が多い国である、特に、阪神・淡路大震災の激震は神戸市を主として大きな被害が発生した。また、東日本大震災では地震と津波が多くの方々の生命と財産を奪い、さらに原発の放射能事故で故郷から引き離され悲惨な状況に陥る家族が続出した。また、その後も日本の政治・経済やさまざまな面でこれらの大災害の影響は色濃く残った。

 大震災を機に、旅館ホテル業界では〔耐震診断・改修〕という経営の根幹を揺るがすかのような新たな大きな課題が発生した。

 耐震問題を語るには、東日本大震災の6年前に発生した「耐震偽装問題」について触れなければならない。

 これは、2005年11月に“A”という元一級建築士が、地震などに対する建築物の安全性を確保する構造計算書を偽造したことに起因する。この“A”建築士は多くのマンションやホテルの建築に携わっており、また同様の耐震偽装をした建築士の例が全国的に判明しマスコミなどで「耐震偽装で、震度5で倒壊する建物もある!」などと喧伝(けんでん)され、旅館ホテル業界でも一時的にパニックが起きるほどの問題になった。

 全旅連でもこの耐震偽装でまともに被害にあった会員がいて、私は総理官邸に赴き小泉内閣の際の官房長官であられた安倍晋三先生に直接、陳情をしたことがあり、丁寧な対応をしていただいた思い出がある。

 阪神淡路大震災の後に改正された「建築基準法」は、行政による検査が民間機関に移管されたことから波紋を呼んだが、“A”建築士による耐震偽装問題で「やはり、建築物の安全性は行政機関が管理すべき!」との意見が強くなり、そのことから旅館ホテルの〔耐震診断・改修〕の問題も派生したものと思われる。

 その結果、1981年に施行された「新耐震基準」=〔震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7に達する程度の大規模地震でも倒壊は免れる〕が、それまでは努力目標的であった基準が、義務付けられることとなり、この〔新耐震基準の義務化〕が建築物を経営資源とする、また商品とする業界に大きな課題を突き付けることとなった。

 われわれ旅館ホテル業界は、当初の国交省の説明会では(また、役所が何か難しい問題を持ち出してきたな!)とか(この新耐震基準で得をする業界が政治家を動かして圧力をかけてきたのか?)との疑心暗鬼に陥る状況もあったが、次第に国交省の本気度が伝わり「これは大変だ! 耐震の診断や工事をやるには、どれくらいの費用がかかるのか?」とか「数億円の耐震工事なんて、稼ぐための工事ではないので、できる訳がない!」との声も上がり、われわれは、自民党の観光産業振興議員連盟(=観議連)の先生方に陳情を重ねて、次第に条件闘争の様相を帯びることとなった。

 結果的に、第1段階として建築物の総面積が5千平方メートル以上の事業所に適用することになったが、総面積が5千平方メートルでも別棟建てや、構造がエキスパンションで切り離されている場合は適用除外の措置も取られた。

 要するに、われわれ旅館ホテル業は「お客さまの生命を預かるビジネス」であること、特にマンションの住人と違って〔不特定多数のお客さま〕が毎日のように変化して利用されるビジネスであるから、求められる安全性は厳しい目で見られても致し方ないということである。

 いったんは、5千平方メートルで落ち着いているが、またぞろ、人命が懸かる災害や事故が起きれば、この面積の規制の数値はさらに小さくなり、厳しい規制がかかることは間違いない。

 われわれ旅館ホテル業を営む者は「あくなき利益の追求」の前に、お客さまの命を預かるビジネスとして「安心・安全を最優先」としなければならない。これは、まさに〔宿命〕である!

(元全旅連会長)

 
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