【観光立国・その夢と現実 28】東日本大震災と全旅連 3 小原健史

  • 2022年7月16日

 厚労省の災害対策本部と国交省での協議を終えた段階で当時の国土交通大臣から全旅連の佐藤会長へ依頼された20万人の宿泊と輸送の手配について、やるべきことが見えてきたので同行の清沢専務と全旅連に戻り、対策本部と協議決定した内容をまとめ、全国の都道府県組合の事務局に即日、情報を伝達した。

 余震に揺れながら、つけ放しのテレビを横目で見て電話をかけパソコンを打つが、津波の被害は最大級で極めて深刻だ。岩手県や宮城県からは会員旅館の被災の情報が入る。そして、テレビでは屋上に「〇〇旅館」と看板を掲げた旅館が津波で流されるシーンが何回も繰り返される。

 疲労困憊(こんぱい)の中でも頑張り続ける事務局員から「小原さんお願いします」と電話を受け取る。「先ほど、地元の旅館組合から被災者の宿泊を受けてくださいと言ってきたけれど、本当?」とか「被災者の食事はどうすればいいのか?」とか、バンバン問い合わせの電話が入りだした。その一つ一つに丁寧に対応をしていったが、質問する方もされる方も経験のない大災害に混乱している。

 特に、被災者を旅館が受け入れる際に〔1名当たり1泊3食で5千円〕という初めての料金システムへの理解が難しいようだ。

 その内容は〔宿の定員を無視して1家族は1部屋でOK〕、食事は〔朝食はパン1個と牛乳1本程度〕〔昼食はコンビニ弁当か同等程度〕〔夕食は一般の夕食料理の3分の1から2分の1程度〕とし、当然、入浴は自由、リネンは2~3日に1回程度提供することを基本とした。

 また、基本的に避難所はまさに緊急避難の場所であり、熟睡もできなければプライバシーも保てない。その点、家族単位で旅館ホテルの客室に避難できれば、睡眠もとれて、上記のような簡易な食事も提供され、プライバシーも守れる。被災者の方々には格好の仮の住いだ!

 全旅連での数日間は、役所との交渉と全国の旅館組合への情報発信、そして質問の電話の対応に明け暮れたが「1泊3食=5千円」と付帯条件の徹底は難しかった。早速、東北の某県の某旅館の女将からの抗議の電話があった。「1泊3食で5千円の補助金があると聞いて受け入れて、2万円の客室と料理の対応をしたが、1泊3食でわずか5千円とは聞いていない!」と厳しい指摘を受けた。大混乱の中での料金の不徹底である。私も強気で対抗するが相手の女将は引かない。互いに大きな声で言い合った。そのような事例が十数件発生したが、そのことは震災直後に指揮を執った者として、心にトゲが刺さったように気になった。

 どうしても気になって仕方がないので、後日、数カ月後にその全ての旅館にお詫びに回った。特に、上記の大声で言い合いをした旅館を訪ねた際に、その女将さんは突然の私の訪問に驚かれ、私は情報の不徹底で損害を与えたことを心からお詫びを申し上げた。

 相手からもお詫びを言っていただき…最後には、お互いに涙声になった。私はその時のその女将の感謝の言葉によって東日本大震災の発生時の全旅連で震災と格闘した苦労が報われたと強く感じた! そして、福島県土湯温泉の旅館を訪問した際に旅館のロビーから「行ってきまあす!」と被災者の子どもたちが旅館の番頭さんにあいさつする集団登校の姿は今もまぶたに焼き付いている。

 全旅連の事務所で震災対応を始めて1週間がたった頃、家内の真弓女将から緊急連絡の電話が入った。「あなた、震災の影響でわが旅館のキャンセルが5千人を超えて予約が全て飛んでしまった。このままではうちが潰れる!」と悲痛な叫びだった。私自身が営業的な被害者になったことを奮闘する事務局の皆さんに説明して、取り急ぎ嬉野温泉へ引き返した。

(元全旅連会長)

 
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