「郷土力」を磨き、情報発信
──地元の取り組みは。
「われわれは阿寒湖温泉だけでなく、『ひがし北海道』というエリア全体をいかにブランド化して、お客さまを呼び込むか、ということに力を入れている。同じエリアにある施設は競争相手ではなく、運命共同体だという認識だ」
「今、ひがし北海道は、『北海道ルート・トゥ・アジアン・ナチュラル・トレジャーズ』、直訳すれば『アジアの宝への道』という広域観光周遊ルートが国の認定を受け、世界に発信しようとしている。ルートは、十勝、上川などの八つのガーデンを結ぶ『北海道ガーデン街道』、そしてミシュラン・グリーンガイドジャポン改訂版で三ツ星掲載された阿寒湖、摩周湖、知床を網羅した『ひがし北海道3つ星街道』が含まれている」
「北海道の高橋知事は、道への年間観光客数を現在のおよそ150万人から、東京オリンピックの2020年までに300万人にする目標を掲げている。ただ、インバウンドを含めたお客さまは、今、千歳空港を中心とした道央圏に集中している。しかし、いずれは飽和状態になるかもしれない。われわれは、道央圏から外に向かうお客さまをしっかり受け入れられる道筋ができたと感謝している。今後、広域ルートにある各地域の観光素材に磨きをかけたり、2次交通網を整備したりすることで、エリア全体のブランド力を高めて、誘客につなげていきたい」
──エリアの中の阿寒湖の取り組みは。
「われわれは『郷土力』という言葉を使っているのだが、郷土の持つ本物の力をしっかりと磨き、地域の個性として発信することが大事だと考えている」
「われわれにとっての郷土力は太古からの大自然であり、先住民のアイヌ文化だ。阿寒湖のマリモは有名だが、実はその種は北半球の多くの湖にいる。ただ、丸くなれる環境というのが阿寒湖と、アイスランドのミーヴァトン湖の2カ所しかない。われわれは、この環境がいかに貴重であるかということの情報発信に力を入れている。アイヌ文化に関しては、紹介するシアター『イコロ』を作り、地元の観光協会、旅館組合、工芸協同組合が共同で、責任分担をして運営している」
──地元の釧路市が今年4月から、入湯税(国際観光ホテル整備法に基づく登録旅館・ホテル)を150円から250円に引き上げました。
「議論が始まってから実現まで13年かかった。お客さまが来なくなるのではと心配する声もあったが、ようやくわれわれの心が一つになった。値上げによって地域に還元される基金原資は年間約5千万円。これを町づくりにしっかりと生かす。まず、街中と景勝地を巡る『まりも家族バス』を走らせた。『まりも家族コイン』という地域通貨も作った。今後は案内標識の多言語化、ワイファイ網の整備、遊歩道の整備、そして町の中心の8万平方メートルの空間を使った『フォレストガーデン』を10年かけて整備する。『リゾートに滞在しながら先住民の英知にふれ、もう一度人生を見つめ直してみませんか』というメッセージを発信することを考えている」
──観光による地方創生を進める全国の地域にアドバイスがあれば。
「それぞれ地域の事情も異なるので難しいが、あえて言えば、地域がバラバラではダメ。われわれは厳しい状況だからこそまとまったのかもしれないが、皆が団結して地域運営にかかわるのだ、という発想を持たなければいけないと思う。魅力的な町という作品を作る活動なのだという意識を持って取り組めば、皆のマインドもいい方向に向かっていくのではないか」
【おおにし・まさゆき】
東京大学経済学部卒。あかん遊久の里鶴雅など11の宿泊施設を経営する鶴雅グループ代表。公職はNPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構理事長など。60歳。