添乗員は「ツアーコンダクター」
プロとして魅力ある職業に
──東京都内ほか各地の労働基準監督署から添乗員派遣会社が是正勧告されるケースが近年増えている。
「旅行業界の慣例で、添乗は『事業場外のみなし労働』という位置付けだった。ところが、勧告した労基署は、添乗は時間管理ができる業務だから、所定労働時間を超えた分の割増賃金を支払うべきとの考えだ。登録型派遣が主流である添乗業界を行政も問題のある業界だと見ている。今までの商習慣に従っていくのに限界を感じている。派遣会社としては改善を強いられているが、派遣法上で労働時間の管理は派遣先の旅行会社が行うことになっているので、旅行会社の協力なくしては実行しにくい」
──TCSAと日本旅行業協会(JATA)は一昨年、国内の日帰りと大会行事の2つの添乗形態は時間管理ができるとの立場で一致した。
「JATAの8割方の旅行会社がこれを理解し、添乗員の日当は旅行約款に書かれている午前8時から午後8時までの範囲であって、それ以外はオーバータイムとして125%の賃金を支払うという考えになり始めた。残る2割は、時間管理ができる、できないというよりも、何時間働かせようが一定の日当で処理したい、要はコストアップを嫌って『できない』と言っているのが実情だ」
──添乗の時間管理はどこまで可能なのだろうか。
「JTBグループは、宿泊を伴う募集型の主催旅行についても10月から段階的に時間管理をしていくという方向性を出した。JTBと横並びで、そのほかの大手の旅行会社もコンプライアンスの観点からも同じような動きになると思う。阪急交通社もそのくらいまでには社内の整備をして時間管理に踏み切りたいと言っている。今後は、国内受注型と海外添乗の時間管理をどうするのかが課題となる。そこで旅行・添乗業界として、みなし労働の適用を主張するのであれば、添乗業務の特殊性を中央官庁にきちんと説く必要があるが、TCSA単独で行うには荷が重すぎる」
──今やるべきことは。
「例え、JATA会員各社が2形態以外はみなしで行くと判断しても、労働行政がどう判断するかが問題なのだ。TCSA会員会社に対し労基署が『添乗は、みなし労働は適用されず時間管理が可能な業務であり、残業見合い分は割増手当を支払え』という指導を次々としてきているなかで、この問題は放置できない。昨今のようにコンプライアンスの徹底が強く求められる社会で合法的に業務遂行をするしかない。いち早く全旅行形態の添乗を時間管理に移行し始めたTCSA会員会社も出てきた。時間管理をするからには定額のみなし日当では処理できず1時間単位の賃金を定める必要があるが、最低賃金すら支給困難となる派遣料金を提示してくる大手旅行会社もあり、その対応に会員会社は苦慮している」
──TCSAとして、どう行動していくのか。
「添乗専門職の処遇改善を求めて活動してきたTCSAは実態に眼を背けず、業界倫理の確立に向けて会員会社の結束を図っていきたい。添乗はやりがいのある仕事で、勤めて40年以上の人も大勢出てきている。労働環境が整備されれば魅力ある職業だ。旅行会社では添乗員を専門性の高い『ツアーコンダクター』として求めていながら、処遇がなされて来ないのが何とも残念だ」
【みつはし・しげこ】
1959年、日本女子大を卒業し、日本航空入社。同社退社後、73年に日本初の添乗専門会社、日本ツアーエスコート協会を設立し、社長就任。76年にツアーエスコート協会、84年にツーリズム・エッセンシャルズ、06年にTEIへと商号を変更し、社長。86年、社団法人日本添乗サービス協会を設立し、専務理事を兼任。