【観光学へのナビゲーター 21】興奮と文化―知的観光資源 日本国際観光学会会員・東洋大学客員教授 和田尚久


 現在、「観光」という産業に、地域経済振興の軸としての期待がかかっている。これは、「残された手段」としての期待であろう。かつて地域の経済発展に貢献した工場誘致は、途上国との競争により、ある工場は撤退し、他の工場の雇用数は減少してしまっている。新規立地も皆無ではないが、数は限られる。農業も芸術品のような超高品質な農産品は国際競争力を有するが、新たに多くの雇用を生み出すのは困難である。農産品については、地域で収穫されたものを地域内で加工し販売するといういわゆる六次産業化という手法もあるが、これは観光業であろう。商業も、例えばアウトレットは域外から客を集める施設であるが、適地は限られており、新たな雇用と所得を多くの地に与えるのは困難である。

 そこで観光に期待がかかる。観光は地域に密着する資源を利用するので、地域密着型産業と見なせるからである。もちろん工業同様、地域外の大資本によって大規模投資が行われれば開発効果は大きい。現在の動きとして、耐震規制強化に対応しきれない古くからの旅館が域外資本の系列下に入るということがある。資本と活動領域が大きいことの効果は高いのである。それでも観光は地域密着型の発展が可能な領域である。あるいはそう思える産業である。地域内あるいは個人で調達できる規模の資本で開業が可能だからである。ホテルや旅館でなく、民泊、民宿、ペンション等を考えれば、分かり易いであろう。食堂、喫茶店、スウィーツの店も同様である。

 その際重要なのは、知的興奮である。ただ見るだけの観光は、楽しくはあっても一度で十分と考える人が多い。地域振興を目指すのであれば、リピーターの確保が大事である。かつてテーマパーク建設が盛んに行われたが、後背地からの訪問客が一巡したところで寂れたところが多い。地域に密着し、地域内資本(移住者のものも含む)に依拠した観光振興を目指すならば、訪問者に興奮を与えなければならない。この興奮はディズニーランドのように大規模な投資を継続することでも得られる。しかし、持続的地域発展を望むのであれば、また投資資金量の限界を勘案すれば、地域の文化を軸に考える必要がある。

 すべての地域に一定の文化がある。これを観光資源に転換することが最も有効な観光政策であろう。変哲もない東海道53次の一宿場町跡に、地元の名産を紹介したり広重の絵を展示する郷土資料館を併設したりして、多くの観光バスを引き付けた例もある。知的興奮を与えるものは地域の文化であり、それに商品価値を与える工夫が有効な観光資源と思う。


和田教授

 
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