【観光学へのナビゲーター 15】長崎県五島列島の教会群と宿泊施設 日本国際観光学会・淑徳大学経営学部観光経営学科助教 永井恵一


永井恵一助教

 2018年6月、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に登録された。これは、長崎の代表的な観光資源のひとつである大浦天主堂をはじめとする、12の資産(五島列島には4つ)により構成されている。

 長崎県内の潜伏キリシタンに関係の深い教会、五島列島の教会の多くは、アクセスが困難な場所に立地しているという特徴がある。潜伏キリシタンが弾圧から逃れるために外海地域(現長崎市)から五島に移り住んだのは18世紀の終わり頃。海と山に囲まれた小さな入江などに隠れるようにして集落を築いたためである。

 五島列島内のいくつかの教会には公共交通(バス)で訪れることができるものの、タクシーかレンタカーでなければアクセスできないような場所にある教会も少なくない。例えば、福江島にある半泊教会は、福江港から車で30分ほど北に行ったところにある小さな教会だ。途中の堂崎教会まではバスでアクセスできるが、その先10分ほど狭い山道を抜け、急な坂道を下り、やっと(という印象で)辿り着ける場所にある。小さく、地味な外観ではあるが、さすが鉄川与助氏による建築と思わせる美しい会堂内は一見の価値がある。その教会を取り巻く景観美とあわせて、ぜひ訪れていただきたい教会といえる。

 五島列島内の宿泊施設は、大きく3種類。一般的なのはレンタカー等での周遊の拠点となる中心市街にあるホテルや旅館である。そして、地元の方との交流を楽しみたいなら福江島を中心に多数ある農林漁業体験民宿。そしてこれからの動向が気になるのがキャンプ施設である。

 農山漁村余暇法による農林漁業体験民宿は、福江島を含む五島市で取り組みが盛んで、市内宿泊施設の総数241軒のうち162軒を占めるほど(「平成30年 長崎県観光統計」による)。地元の方の生活感に触れ、ゆっくり交流を楽しむことができるのがこの体験民宿の面白さである。半泊教会の隣にも1軒。携帯電話が圏外となるのもまた魅力のひとつといえようか。

 キャンプ施設は、例えば野崎島の自然学塾村が挙げられる。野崎島は現在ほぼ無人島となっており、アクセスは小値賀島からの町営船(1日2往復)、上五島の津和崎からのチャーター船に限られる。自然学塾村は1985年に閉校になった野崎小中学校の木造校舎を再利用してできた施設で、教室と、校庭に設置された常設テントに宿泊可能である。最近は修学旅行生が多く訪れ、ここを拠点に野崎島の自然を体験するアクティビティ(港での飛び込みやカヌー、トレッキングなど)を楽しむという。このすぐ裏手には旧野首教会が、自然学塾村と野首海岸を見下ろすように建っていて独特な景観をなしている。

 また、昨年9月にオープンして話題となっているのが、藤田観光が経営するノルディスクヴィレッジ(Nordisk Village Goto Islands)である。福江島の富江町田尾地区にあり、ここも2000年に廃校となった小学校を活用したグランピング施設で、校庭には豪華なテントが配置され、校舎にはコミュニケーションスペースとレストラン、周辺には美しい農村景観が広がっている。もともと、地元の方々が地域の再活性化を目指して旧校舎の活用を検討。藤田観光との連携によりグランピング施設の開業に至った。いまもレストランを地元の方々、一般社団法人「田尾フラット」が運営しており、農業事業、交流事業による地域の活性化に取り組んでいる。

 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に限らず、宗教施設と自然環境には密接な関係がある。伊勢神宮や、厳島神社は典型的といえよう。「宗教と観光」を考える際、「自然環境」は重要な側面のひとつとなる。五島を訪れると、教会の周囲の景観だけでなく、星空や透明度の高い海を見ても、自然の近くで宿泊したいという考えは必然的に浮かんでくるだろう。宗教や自然の静謐さを反映した宿泊施設を、今後どう展開していけるかが、このテーマにおける重要なカギとなるように思う。


永井恵一助教

 
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