【観光学へのナビゲーター 1】連載スタートに寄せて~「観光学」のアウトライン 日本国際観光学会会長・東洋大学国際観光学部教授 島川崇


日本国際観光学会 島川崇会長

 このたび、日本国際観光学会として観光学の潮流に関して連載するお話をいただき、会員が分担して執筆することとなった。

 日本国際観光学会は1993年に発足し、会員数約400名を擁する観光学系の学会では2番目の規模を持つ学会である。発足当初から産学連携を特徴とし、旅行会社、航空会社、ホテル等の観光関連産業出身の研究者も多く、アカデミック分野に興味を持つ現役の実務者も多く参画している。そのため、数式をならべただけの研究や、既往研究をなぞっただけの研究のようないわゆる「研究のための研究」はこの学会では評価されない。さらに、当学会では2年前から自由論集という論文集の発行を始めた。この新しい論文集は、文字通り、誰にも忖度することなく自由に執筆できることから、ユニークな研究、萌芽的な研究にも光が当たるようになり、研究の新たな地平を開くきっかけとなった。また、新進気鋭の旅行会社である株式会社旅工房とのコラボレーションで、持続可能な社会づくりに観光が積極的に関与することを目的に、貧困縮小または平和構築に資する新しい観光の取り組みを研究するための助成研究プログラムもスタートし、コスタリカ、インドネシア、ギリシアをフィールドにした研究に支援を行っている。

 これらを機に、観光の多様な側面に光を当てていくことの必要性が認識され始めたことで、昨年からテーマ別研究部会を立ち上げ、それぞれの分野を深めていく活動をスタートした。現在、観光への知的財産権活用、宿泊関連、精神性の高い観光、持続可能な戦跡観光、福祉観光、航空マネジメント、おもてなし文化、オーバーツーリズムの8分科会が名乗り出ており、研究が進行している研究部会からこのコラムを分担して執筆をする。

精神性の高い観光研究部会 竹村牧男東洋大学学長の講演風景「一遍上人の旅について」

 観光学は複合的な学問領域であるということが言われて久しい。米国ではホテル経営学を中心に、欧州では社会学や開発学から観光学が発展してきた。我が国では、それら2つの領域に加え、建築学・都市計画、文化人類学からの研究が進んでいる。ただ、総合的な学問であるということを言い訳に、研究者は自分の専門分野のたこつぼ内から出てくることなく、他分野には無関心である場合が少なくない。さらに、研究内容もそれぞれの研究分野における観光のケーススタディといった色合いの研究も多く、学問として観光学がいつまでたっても一人前として扱われる域に達していないと言っても過言ではない。これはひとえに観光研究者の怠慢に原因がある。総合的学問、学際的学問という言葉に甘んじることなく、もっと観光の多様な側面にも関心を持ち、観光の経済効果だけを追求するといった志の低いレベルに満足してはならない。

 本学会は、そのような既存の観光学の限界を打破し、観光という人間活動が続く限り観光学が学問分野として正しいあり方を追求する存在であるべく、今後もあらゆる仕掛けを試みる。

日本国際観光学会 島川崇会長(東洋大学国際観光学部教授)

 
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