
厨房は旅館の中でも、比較的大きなエネルギーを毎日消費している場所の一つです。水道・ガス・電気・蒸気といった施設のインフラが集まる場所でもあります。旅館の脱炭素を考える上では、避けては通れない場所でもあります。したがって、厨房で排出するCO2をいかに削減するかということは、極めて重要なテーマとなります。
そこで、加熱調理に使用する機器を燃焼ガスに多くのCO2を含むガスコンロから燃焼ガスが発生しないIHコンロに切り替えるべきではないかということがよくいわれます。そのことは解決策の一つではありますが、社会全体の脱炭素を考えると、各エネルギーのサプライチェーンが原材料の調達からエネルギーを生成する際に排出されるCO2や、利用する施設(今回の場合は旅館)に届くまでの配送時に排出されるCO2に加えて、厨房で作られた料理がお客さまに運ばれるプロセスや食べ残しなどの残飯や調理中に発生した廃棄食材の処理の際に排出されるCO2についても考慮する必要があります。
環境省の資料では、サプライチェーン排出量にScopeという考えが示されており、旅館においても同様の考え方が適用できます。
すなわち、自社で燃料の燃焼により発生するCO2排出量がScope1、他社から供給された電気、熱、蒸気の使用により間接的に発生するCO2排出量がScope2と定義され、原材料調達から輸送といったエネルギーが作られる過程や作られた製品やサービスの使用や廃棄といった間接排出をScope3として、これら三つの合計を排出量とするものです。このことは、自社を旅館に置き換えて考えれば、旅館ついても当てはまります。
しかし、各エネルギーのサプライチェーンについては、進捗(しんちょく)状況に違いはあれども、脱炭素への取り組みが進められていることに加えて、旅館の立地や運営方針によって、間接的なCO2排出量が異なることから、個々の旅館の事情によって対応が異なってきます。
そこで、各エネルギーを消費する側である旅館において、まず取り組む必要があるのは、どのようなエネルギーを使用するにしても小さなエネルギーで運営できる姿を追求する考えが重要になってきます。
また、旅館での唯一の製造現場である「厨房」には多くの課題があります。食器洗浄での水と湯の無駄使い、調理場での中抜き勤務、そして食品ロスです。
(エコ・小委員会委員 NRTシステム代表取締役 畑治)