京王プラザホテル(東京都西新宿・山本護社長)名誉総料理長、緑川廣親氏が、「国際料理芸術クープドール・マリウス・デュトレイ」を受賞された。「芸術としての料理を極め、ホテル業界で顕著な功績を残したフランス料理のシェフ」に授与される、権威のある賞だ。フランス料理アカデミー会員の推薦で、世界中のフランス料理シェフの中から選出されるのだが、選ばれるのは何と数年間でたった1人。日本人で初めて、かのポール・ボキューズやジョエル・ロブションと並び称される栄誉に輝いたのだからスゴイ。
先日、同ホテルにて祝賀会が開催され、筆者も参加させていただいた。会場に入ると、中央に設えられたブッフェ台の向こうに、白いコックコート姿のシェフたちがズラリと並んでお出迎え。ブッフェと言っても、あなどるなかれ。入り口で渡されたメニューに目を通すと、あまりに豪華な料理のオンパレードにビックリ。とても全制覇できそうもない種類の豊富さもさることながら、内容はさらにオドロキであった。なぜって、いずれもムチャクチャ手間と時間が掛かる料理ばかりだったのだ。
昨今、伝統的なフランス料理を提供するレストランは、どんどん減っている。正統派のダブルコンソメを提供できる店が、一体どれぐらいあるだろう? 今や、きちんとフォンを引かなくても業務用のフォン・ド・ヴォーがあるし、手間暇掛ければ人件費もかさむから、面倒なことは極力避けるようになってしまったのだろう。ところが今回は、超美味なコンソメスープの下から、平たく言えばフォアグラ入り茶碗蒸しが顔を出す、ロワイヤル仕立てという贅沢さ。
冷製シャルキュトリも、目を見張るラインアップ。シャルキュトリとは、いわゆるハム・ソーセージ・パテ・テリーヌと言った、食肉加工品の総称。
フランスに古くから伝わるシャルキュトリの伝統製法を守るべく纏められた「シャルキュトリ規定書」には、450もの種類について詳細が記されているという。今回は、「家禽とトリュフ、ピスターシュのガランティーヌ」や「鴨のテリーヌ」、そして、敢えて日本風に表現するなら「豚の頭の煮凝り」とも言える「フロマージュ・ド・テット」など、まさに芸術的なシャルキュトリがズラリ。これだけ素晴らしい伝統的なフレンチを一度にいただける口福は、今後の人生でおそらく二度と経験できないだろう。
祝賀会発起人で、フランス料理アカデミー日本支部会長のジョエル・ブリュアン氏のスピーチが心に残る。46年の長きにわたり、日本のフランス料理界に貢献して来られた緑川氏に祝意を表したのはもちろんだが、それをずっと支えて来た京王プラザホテルにも賛辞を惜しまなかったのだ。確かに、「本物」を伝承していくのは楽なことではない。同ホテルの企業としての懐の深さがあればこそ、緑川氏の活躍の場があったのだと思う。筆者も、心から拍手を送りたい。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
牛フィレの冷製
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