【竹内美樹の口福のおすそわけ176】蟹かにワールド その13 高足蟹 竹内美樹


 まだ食べていない蟹を見つけたら、すぐにでも飛んで行きたいと前々号に書いたが、意外にも早くその機会を得た。浜名湖を訪れた際立ち寄った、浜松市弁天島にある「活魚料理 太助」の暖簾をくぐると、目の前の水槽に巨大な蟹がいるではないか!

 それは、高足蟹。大きなもので足を広げると3メートルにもなるという、世界最大の節足動物だ。同行者の一人も「水族館でしか見たことがない!」と大ハシャギ。

 実はこの高足蟹、静岡県が漁獲量日本一。と言うのも、高足蟹は岩手県から九州までの太平洋沿岸や東シナ海にかけて分布し、水深200~400メートル程度の砂泥底に生息するため、最深部で2500メートルに達する日本で最も深い駿河湾は、絶好の住処。また、他の地域では底曳き網にたまたま引っ掛かって漁獲されるのだが、静岡県ではれっきとした漁業対象としているのだ。

 一説によると、高足蟹は恐竜が絶滅した後の第三紀に出現し、そのままの姿で生息していると言われ、「生きる化石」とも呼ばれているそうだ。それを食べられるなんて! 同店でも、期間限定の上、入荷がないこともあるという。期せずして訪れたこのチャンス、逃すワケには行かない。

 メニューブックとは別に用意された、高足蟹のみのお品書きを見てみると、「1匹売りもできます」と書いてある。ちなみにおいくら位ですか?と聞いてみると、今日は一番小さい物で2万円程度との返答。うぅ~ん、どうしよう?と、改めてお品書きとにらめっこ。やっぱりいろいろな調理法で試してみたいと、単品でオーダーすることに。

 まずは、「高足蟹味噌」。この蟹は大きいだけにミソがタップリ入っているというが、やや苦い場合もあるらしい。丸ごと蒸した物だとハズレの可能性もあるが、その点これはそのまま食べられるように味付けしてあるので安心だ。上に乗った卵黄を溶いて食せば、濃厚なミソの味がねっとりと舌にまとわり付き、お酒との相性バッチリ。

 続いてお刺身。水分が多いせいか身離れが良く、食べやすい。肉質はプリプリというより若干軟らかめで、毛蟹やズワイ蟹のそれとはちょっぴり違う、サッパリした上品なお味。

 お次は、「茶碗蒸し蟹味噌メレンゲ」というオリジナル料理。フワフワでクリーミーな、コクのある蟹ミソ味のメレンゲと、とろける茶碗蒸しとのハーモニーは、オドロキの絶品!

 そして、焼き蟹。火を入れることで旨味が凝縮され、深みのある味わいに。少し焦げた殻の香ばしさもアクセントとなり、長い脚にかぶりつけば、あぁ口福。最後は天ぷら。程よく水分が抜けて弾力が増し、食感も食味もアップ。

 大きいから大味だという評価もあるようだが、いずれも美味であった。何たって、日本近海でしか獲れない「生きる化石」をいただけるだけでシアワセだ。次はぜひ丸ごとにトライしてみたいものだ。

 駿河湾の漁期は9月から翌年5月まで。まだ間に合うぞ!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。







 
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