【竹内美樹の口福のおすそわけ 367】ニッポン生まれの洋食~その3~たらこスパゲティ 宿泊料飲施設ジャーナリスト 竹内美樹


竹内氏

 このシリーズの1回目「ナポリタン」も、2回目の「ドリア」も、いかにも外国から渡来した料理のようだが、実は日本発祥の洋食であった。だが、今回のテーマ「たらこスパゲティ」は、洋食と言うよりそれをアレンジして日本風にした、和洋食のようなモノだ。

 たらこスパゲティが、スパゲティ専門店「壁の穴」で生まれたことは、広く知られている。昭和38年に東京渋谷で開業した同店、その前身は昭和28年に成松孝安氏が創業した「Hole in the Wall」だ。同氏はCIA極東長官ポール・ブルーム邸で執事を務め、西洋料理に親しんでいたという。

 当時はまだアルデンテの概念もなく、ゆで置きした麺を炒め直したうどんのような食感のパスタばかりだったらしい。そんな中、注文を受けてから麺をゆでアルデンテを貫いたことで、東京在住の外国人をはじめ本物志向の人々が通うようになったそうだ。

 あるとき、常連客の1人が海外演奏旅行から帰国し、パスタに載せてほしいとキャビアを持ち込んだ。作ってみるとことのほか美味だったのだが、高価だからそう簡単に使えない。そこで同じ魚卵のたらこを使ったパスタを考案した、というのが誕生のヒミツだ。

 その後、同店は、うま味の素として昆布粉を入れ、ウニや納豆など日本の食材を使って、日本人の味覚に合うパスタを独自に開発。それらが大ヒットし、和風スパゲティの元祖と呼ばれるように。パスタにのりや青じそをトッピングし始めたのも、同店だそうだ。

 同店には、思い出がある。中学生の頃、ニガテだった数学を克服すべく、兼業主婦の先生がご自宅で営む小さな塾に通っていた。期末テストで90点以上だったら、ご褒美に好きな物を食べさせてくれるということになり、筆者は当時どうしても食べてみたかった「壁の穴」の納豆スパゲティをリクエスト。そしてぶら下げられたニンジンを目指して頑張った結果、見事百点満点を獲得! 先生は約束通り、一緒に通っていた友人たちと共に、同店に連れて行ってくれたのだ。

 浮かれ過ぎていたせいか、初めて食べた納豆スパゲティの味はあまり覚えていない。けれど、仲良しの美雪ちゃんが注文したイクラの載ったスパゲティを見て、あっちの方が得だったと後悔したのを思い出す。その頃から食意地が張ってたんだなぁ…。

 今や、家庭でも作られているたらこスパ。たらこに火を通す派、生派、クリーム系やサッパリ系などレシピはさまざま。わが家でもよく登場するが、作り方は超簡単。たらこの薄皮を外し、バターとレモン汁と混ぜたものをパスタに和え、刻みのりをかけるだけ。配合はいつもテキトーなのだが、たらこのうま味とバターのコク、レモンの爽やかさで、延々と食べていられる味。のりもイイ仕事をしてくれるので、絶対外せない。

 各国料理のイイとこ取りをし、自国の味と美味の掛け算をしている日本の食って、なんて口福なんだろう。先人の知恵に感謝!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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