海苔(のり)の不思議、最終回。
農産物同様、海苔も産地によってかなり味が違うらしい。海水の質などさまざまな要素はあるが、最も大きく影響しているのは、養殖方法の違いといわれている。海苔の養殖は「支柱式」か「浮き流し式」の2種類。前者は、海底に立てた支柱に海苔網を張る方法。潮が引き、網が海面から出て日光に当たるので、赤みがかった色の軟らかい海苔になるという。一方後者は、網の周囲に浮きを付け、海底に錨(いかり)で固定する方法。網が常に海中にあり日光に当たらないため、黒々と艶があり、厚みがしっかりした海苔に仕上がるそうだ。
コレはもう、食べ比べてみるしかない!と、ネットでお取り寄せ。届いたのは、愛知県知多産、三重県桑名産、佐賀県鹿島産の3種食べ比べセット。いざ実食!
まずは、海苔の養殖技術を発展させた「冷凍網」と、前述の「浮き流し式養殖」を開発した愛知県産。「支柱式」は遠浅の海であることが必須条件。沿岸工業地帯など埋め立てが盛んになり、海苔漁場は減少していったが、「浮き流し式」が開発されたため、沖合の深い海や潮流の速い所でも養殖が可能になったのだ。知多産の海苔は厚手で黒光りしており、しっかり噛(か)み応えがある。試しに計量してみたが、他と同じ3グラムとは思えないほど肉厚だ。
続いて三重県桑名産。知多と同じ伊勢湾だが、こちらは「支柱式」。揖斐川、木曽川、長良川の「木曽三川(きそさんせん)」が流れ込むため、栄養分豊富な海域である。なるほど、うま味が濃く香り豊か。寿司(すし)店に人気があるというのもナットクの味わいだ。
最後に佐賀県鹿島産。全国のおよそ5割近くを産出する有明海は、日本最大の干潟で、約6メートルという干満の差を利用した「支柱式」。筑後川をはじめ多数の河川が流れ込む豊潤な海で育ち、日光に当たる「干出(かんしゅつ)」でその養分を蓄えた海苔は、色は薄いけれど味は濃く、甘みもあり、軟らかでとろりと口溶けが良い。
食べ比べてみて初めて、こんなに違うものかと驚いた。今回は食せなかったが、有明海に次ぐ産地の瀬戸内海産は「浮き流し式」で、やはり肉厚らしい。時間がたっても破れにくいから巻き寿司に向いているというが、天麩羅(てんぷら)もアリだろうなぁ。江戸っ子としては、現在は千葉県産とはいえ、東京湾の海苔も食べてみたいものだ。それから、養殖中に天然の青海苔がついた「青混ぜ」も興味深い。青海苔は寒さに弱いので、水温の高いわずかな時期しか採れないため、生産量はたった0.5%で「幻の海苔」と呼ばれているようだ。
実は近年、危機が訪れている。2018年度産は46年ぶりの大凶作、2019年度産は少し回復したものの、かつての生産量全型100億枚には遠く及ばず、漁期が終わる今年4月で約66億枚。地球温暖化による海水温の上昇が最大要因だ。海苔が採れなくなったら、なんて考えるだけでオソロシイ。ニッポンが誇る伝統食品の未来のためにも、サスティナブルな地球環境であることを切に願う。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。