札幌市のモエレ沼公園は、世界的に著名な彫刻家イサム・ノグチ氏の設計に基づき、約188.8ヘクタールの公園全体が彫刻作品というコンセプトで2005年にグランドオープン。そのシンボルである、ガラスのピラミッドの一角に位置するレストランが、「ランファン・キ・レーヴ」だ。
札幌唯一の三つ星フレンチレストラン「モリエール」の他3店舗で星を獲得している、中道博シェフ率いるラパンフーヅ・グループが手掛けており、同店も一つ星に輝いている。過疎化が進む人口2千人の真狩村に造ったオーベルジュが話題を呼び、年間80万人の観光客が訪れるようになったという実績を持つ中道氏に、札幌市が白羽の矢を立てた格好だ。
同店の料理は、児玉雄次シェフに任せられている。東京で生まれ育ち、さまざまな飲食店で経験を積んだ後、北海道に渡って「モリエール」に入った彼は、真狩村のオーベルジュ「マッカリーナ」の立ち上げにも参画、「ランファン・キ・レーヴ」オープンと同時に同店のシェフに就任したそうだ。
同氏のお料理は、この空間にふさわしくアーティスティック。先般訪れた際は、コンソメのジュレとグリンピースのムースからスタート。やや深めの白い大きな器に、乳白色のクリームチーズ、深緑色のムース、透明なコンソメジュレが見事なバランスで配置されたさまは、まさに芸術品。
続く新玉葱(たまねぎ)のフリットは、黒豆・小豆・レンズ豆など、道産の豆が敷き詰められた木箱に載って登場。別皿で提供されたピンク色の海老(えび)パウダーをつけて食せば、玉葱ってこんなに甘かったのね! と脱帽。
次はラタトゥイユかと思いきや、「夏野菜の素揚げトマトソースあえ」だと、サービスの責任者福積高志氏が取り分けながら説明してくれた。テーブルで取り分けたり、後から何かを盛り付ける演出が多いのも、同店の特徴である。
思わずほほ笑んでしまう優しい味わいの、泡をまとったインカのめざめのピュレを挟んで、魚料理は、ディルのスープに浮かんだ時知らずのムニエル。同時に運ばれたストウブの鋳物鍋から、紫色のシソの花で彩られたフュメ・ド・ポワソンのリゾットを盛り付ければ完成だ。時知らずは驚くほどやわらかく調理され、脂も乗っていて超絶品。
メインはフランス産鳩(はと)とフォアグラのパイ包み。ちょうど良いあんばいに火の通ったロゼ色の鳩肉と赤ワインソースのハーモニーに酔いしれていると、これまた別盛りで越冬メークインが登場。雪の中で氷温熟成されることでデンプン質が糖分に変わるそうで、甘いのなんの!
青紫の花をつけたキャットミントの上に盛られた、オレンジ色のメロンゼリーのデザートに至るまで、ビジュアルも味も食感も、斬新で独創的な発想にあふれていた。
店名は仏語で「夢見る子供」という意味だが、夢のようなお料理に、筆者も童心に帰って口福のひと時を楽しませていただいた。また行きたいな!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。