山形県天童温泉にある、「ほほえみの宿 滝の湯」を訪れた。山口敦史社長とは、同氏が全旅連青年部の第21代青年部長に就任する前、まだ宿の専務の頃からの旧知の仲である。
同館には、他にはない大きな特徴が二つある。一つは、将棋のタイトル戦が行われる宿だということ。天童市は、将棋の駒の生産量日本一を誇り、そのシェアはなんと95%にのぼる。将棋の街だけあって、至る所に将棋駒のモニュメントがあり、人間が駒になって対局する「人間将棋」が開催されることでも有名。そんな縁もあって、全国各地の有名旅館やホテルで開催されるタイトル戦の中でも、同館は度々竜王戦の対局場となっており、特別室「竜王の間」がある。
そこには、オドロキの工夫が施されているそうだ。対局のテレビ中継を考慮し、盤面を撮影するカメラが天井に直接取り付けられ、カメラケーブルも壁の中を通して外のテレビ中継車までつながるようになっている。テレビから映る場所にコンセントがない上、照明器具がレールで移動できて明るさの調整も可能といったふうに、さまざまな配慮がなされているのだ。
いかに細やかな気配りがなされた宿かが分かる。テーマは「人と自然に優しい宿づくり」。お客さまへの配慮はもちろんのこと、温泉という自然の恵みを享受している以上、自然環境への配慮も必要という考え。それが同館二つ目の特徴で、全社を挙げて環境保全活動に取り組んでいる点だ。
例えば、食べ残しや調理残渣(ざんさ)など生ゴミは、堆肥にして自家農園の「循環型農法」に利用。廃食油は燃料やせっけんにリサイクル。使用済みの竹箸は農園内の炭焼き釜で焼き、竹炭・竹酢液として畑の土壌改良や防虫等に使用している。
また「分ければ資源、混ぜればゴミ」をスローガンに、資源ゴミの分別を徹底しリサイクルを進めているほか、大浴場から廃出される廃湯もロードヒーティングに再利用し、除雪作業の軽減を実現しているという。
さらには、300枚ものパネルを設置し太陽光発電を行い、クリーンエネルギーを使用しており、パブリックスペースの9割以上の照明と誘導灯をLED化することで、省エネにも取り組んでいる。
これらの環境保全活動は、およそ20年ほど前からスタートしており、その成果が認められ、2015年には、地球温暖化防止活動を競う「低炭素杯2015」で、環境大臣賞金賞を受賞した。
「日本一ほほえみが往き交う宿」を目指すだけあって、あちこちにほほえみのタネがまかれている同館。自家農園で育てた安心・安全な無農薬有機野菜がいただけるのは、お客さまにとってほほえみのタネ。社員が自宅から廃食油を持って来るとスタンプを押し、1年間で最も多かった人に社長賞を贈ることで環境保全に対する意識を高めているそうだが、コチラは従業員のほほえみのタネだ。次号は、そんな同館の地産地消のお料理について。お楽しみに!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
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