【私の視点 観光羅針盤142】熊野古道とDMC 石森秀三


 北海道足寄町の野中正造さんが世界最高齢男性としてギネス世界記録に認定された。御歳112歳で、まさに「人生100年時代」を代表する北海道民だ。が、道民全体の平均寿命は決して高くない。女性は86・77歳で都道府県別で37位、男性は80・28歳で35位と低迷している。道民は他都府県よりも座っている時間が長く、そういう生活習慣が寿命に関係しているらしい。座っている時間が長いと血流が悪くなり肥満や高血圧になりやすく、がんの発症率が高くなるとのこと。まず歩くことが大切らしい。

 今年3月に北海道大学観光学高等研究センター主催で「歩く滞在交流型観光の新展開」と題される観光創造研究会が開催された。その際に田辺市熊野ツーリズムビューロー(KTB)の多田稔子会長による熊野古道の事例報告を聞く機会があった。

 熊野古道は2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されてから観光客が急増した。ところが当初は「歩く仕組み」が不十分であったために不評をかうことが多かった。06年に設立されたKTBは、世界に開かれ世界に通用する観光地を目指して、さまざまな課題解決を図り、成果を挙げている。

 看板・サイン整備、マップ・メニュー改良、体験プログラムの充実化、イベント開催、エージェントツアー、プレスツアー、受け入れ関係者の現地研修などを積み重ねた。10年に第2種旅行業取得に伴ってDMC(Destination Management Company)機能を強化し、FITを中心に宿泊などの予約・決済の効率化を図るとともに、現地対応(アテンド、ガイド、サポート)の充実化や新たな旅行商品の発掘に取り組んだ。

 その結果、11年度の利用客約1900人、売上高約4千万円が、16年度には利用客約1万1500人(約68%が外国人)、売上高約3億700万円に増加。また熊野古道の道普請、小中学生による語り部ジュニア育成などにも協力している。

 数百キロに及ぶ道で世界遺産に登録されているのは熊野古道とスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路(93年登録)だけであり、08年から共同プロモーションを実施。15年にDual Pilgrim(共通巡礼手帳)制度を導入し、早くも18年2月に千人に達している。KTBは12年にWTTC(世界旅行ツーリズム協議会)主催の「明日へのツーリズム賞(Tourism for Tomorrow Awards)」のデスティネーション管理部門で最終選考に残ったが、惜しくもノルウェーのレーロース(80年に世界遺産登録)が最優秀に選ばれ、それに次ぐ表彰を受けている。

 KTBは職員数23人の小規模なDMCであるが、100年先を見据えながら、世界に開かれた上質な観光地づくりで重要な貢献をなしており、今後のさらなる活躍が期待されている。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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