【私の視点 観光羅針盤120】人手不足とシェアリング 石森秀三


 衆議院選挙は自民党が単独で絶対安定多数を制して安倍政権の継続が決まった。その結果、今後とも観光立国政策が強力に推進されるのは確実だ。

 すでに9月中旬に訪日外国人旅行者数が2千万人を突破すると共に、外国人旅行者による消費額も9月末で3兆2761億円に達している。年間最高の3兆7476億円を記録した昨年を上回るペースだ。

 中国人客の「爆買い」は沈静化したが、百貨店や免税店などで個人向けのサービスを充実させていることが功を奏しているようだ。インバウンドの増加が日本経済に大きなインパクトを与えていることは評価すべきであるが、消費額を2020年に8兆円に引き上げる政府目標の達成は容易ではない。

 インバウンドの増加は順調であるが、日本の観光立国についてはすでにさまざまな点でひずみが生じている。

 例えば、都市部のホテルでは客室担当従業員の確保が困難になっており、空室があるのに部屋の片付けが追いつかないために宿泊客を受け入れられないという残念な状況が生じている。

 このような人手不足現象はホテルだけに限ったことではない。例えば、宅配大手3社は人手不足などを理由にして運賃値上げを実施している。日本郵便も「ゆうパック」の運賃値上げを来年3月に実施する予定だ。

 インターネット通販を利用する人が増えているために荷物量が激増しているが、人手不足が深刻で従業員の待遇を良くしないとドライバーの確保が困難になっている。

 輸送業における人手不足に対応して、北海道で新しい試みが行われている。国内ビール大手4社(アサヒ、キリン、サッポロ、サントリー)は札幌から道東方面へ向けたビールなどの共同輸送を今年9月から実施している。

 ビール業界はこれまで熾烈なシェア争いを繰り広げてきたが、北海道の広大な面積と深刻なドライバー不足という厳しい現実を前提にしてライバル同士が異例のスクラムを組んだわけだ。北海道ではすでに食品6社が昨年から共同輸送を行っており、そのような動きは薬品業界にも広がっている。

 欧米諸国ではすでにシェアリングエコノミーが隆盛化している。日本でも米国発のAirbnbやUberなどのシェアリングサービスが浸透しつつある。欧米ではシェアリングエコノミーはさまざまな生活領域に及んでいる。それは場所のシェア(民泊、ルームシェア)、モノのシェア(衣服、おもちゃ)、移動のシェア(カーシェア、ライドシェア)、リソースのシェア(労働力、技術)など実に多様だ。

 日本の観光業界も今後はシェアリングエコノミーの利点をうまく取り入れて経営の効率化を図っていく必要がある。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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