【私の視点 観光羅針盤114】アクセシブル・ツーリズムへの期待 石森秀三


 9月27日は「世界観光の日」(World Tourism Day=WTD)。WTDは1970年の同日にUNWTO(世界観光機関)憲章が採択されたことにちなんでいる。

 WTDは国際社会における観光の社会的・文化的・環境的・経済的な重要性を啓発するために、UNWTOによって89年に制定された。UNWTOは年ごとに特定テーマを設定して世界各地でセミナーやイベントを開催している。昨年のWTDに発表された年間テーマはTourism for All‥Promoting Universal Accessibility(全ての人が参加可能な観光の促進)であり、障害者や高齢者を含めたあらゆる旅行者が快適に観光できる「アクセシブル・ツーリズム(Accessible Tourism)」の推進が取り上げられた。

 UNWTOがアクセシブル・ツーリズムを年間テーマに掲げているにも関わらず、今年6月に鹿児島県奄美大島の奄美空港で驚くべき出来事が起こった。半身不随の障害者の男性が飛行機に搭乗する際に階段式タラップを1段ずつ腕ではって昇らされた、というアクセシブル・ツーリズムとは正反対の出来事だった。

 その車いすの男性(大阪府に居住)は関西空港から奄美空港に格安航空会社(LCC)バニラ・エアで向かったが、関空の搭乗カウンターで奄美空港には車いすで昇降できる設備がないという説明を受け、往路の奄美空港到着時には友人が車いすごと持ち上げてタラップを降りた。

 復路でも同様に友人が車いすを持ち上げようとすると、業務受託の担当者は危険であり、バニラ・エアの規定に違反するので自力で昇るように指示したために、障害者はタラップに座るような姿勢で自力で17段を昇らされた。そのような対応を疑問視した障害者が国土交通省に連絡したことからバニラ・エアが当人に謝罪すると共に、現在では奄美空港にも電動式階段昇降機が設置されている。

 世界的に既にアクセシブル・ツーリズムの推進が重要課題になっており、日本でもアクセシブル・ツーリズムやユニバーサル・ツーリズム、バリアフリー・ツーリズムなどの名称で各種団体が創られ、高齢者や障害者らが気軽に安心して旅を楽しめるようハード面での整備とソフト面でのサービスが広がりつつある。

 特に、東京都は20年の東京オリパラを前提にしてアクセシブル・ツーリズムの基盤づくりに着手している。また一般社団法人日本UD(ユニバーサルデザイン)観光協会は独自に「観光介助士」資格の認定を行っている。観光介助士は、旅行観光サービスと介護福祉サービスに精通したプロフェッショナルとしての資格であり、観光立国の本格化に伴うアクセシブル・ツーリズム推進に不可欠の人財である。今後の資格制度の進展に期待したい。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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