日本政府観光局(JNTO)は8月16日に「今年7月の訪日外国人旅行者数が232万人になり、コロナ前の水準の約8割まで回復」と公表した。また、観光庁は7月の宿泊旅行統計に基づき「ホテル・旅館に宿泊した日本人と外国人は延べ5282万人、コロナの影響が出始めた20年2月以降の最多を更新」「国内旅行の活発化と共に外国人は15倍の1063万人で訪日客回復が追い風」と8月末に公表し、宿泊業界を勇気づけた。
ところが、東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出が8月24日から始まり、中国は日本からの水産物の全面的禁輸を決め、水産業界に大きな打撃を与えた。さらに海洋放出をきっかけにして対日非難の動きが高まっており、日本製品ボイコットなども生じている。コロナ禍以降、中国経済は低迷が続いており、国民の不満をそらす手法として「反日」が利用されている。中国は訪日団体旅行を8月10日に解禁したが、観光分野へのダメージが懸念されている。
中国では毎年9月に反日ムードが高まりがちだ。9月3日は「抗日戦争勝利記念日」、18日は満州事変の発端となった「柳条湖事件」の日。
また、ロシアは中国の反日ムードに呼応する形で、今年から9月3日を「軍国主義日本に対する勝利と第2次世界大戦終結の日」と定め、行事を行った。
さらに北朝鮮も「模擬核弾頭を搭載した長距離戦略巡航ミサイルの発射訓練を行った」と9月3日に報じ、日米韓同盟に対抗して「敵に実質的な核危機を警告するため」と強調。
ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけにして、米国と中国の対立が高まり、世界の分断化が明確になっている。「すでに第3次世界大戦が始まっている」と警告する世界的識者も存在する。軍事的対立が生じる前に政治的対話が必要であり、9月9日からインドで開催されるG20の首脳会合に対する期待が高まっている。73年のオイルショックを契機に先進国首脳会合(G7)が開催されるようになり、08年の世界金融危機を契機に20カ国・地域首脳会合(G20)が開催され、先進国とグローバル・サウス(南の途上国)との対話が可能になった。
G20首脳会合での政治的対話も重要であるが、世界各国の国民が連帯し対話を重ねることも大切だ。国際連合は1981年総会で「9月の第3火曜日を国際平和デー(ピースデー)」と定め、世界中の国々や人々が平和について考え行動する日とした。次いで2002年総会でピースデーを9月21日に変更し、「世界中から争いがゼロになる日をつくろう」という取り組みの強化が図られ、ピースデーには世界各地でさまざまなイベントが開催される。
観光産業は「平和産業」と呼ばれており、人々の円滑な相互交流や相互理解を促すことによって、さまざまなかたちで平和の実現に貢献している。観光業界が本当に「平和産業」としての明確な自覚を有しているのであれば、ピースデーのような絶好の機会に積極的に社会的アピールを行うべきだ。
世界の分断化が進んでいるからこそ、日本の観光業界が全世界に対して「平和産業としての役割」を積極的にアピールすることが求められている
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)