
7月10日に参議院議員選挙の投開票が行われる。すでに各種メディアの報道では「自民党の圧勝」という見方が大勢になっている。日本はいま数多くの「内憂外患」を抱えており、本来であれば与野党間で激論が交わされ、与党内でも厳しい議論が交わされて然るべきであるが、全く盛り上がりに欠ける国政選挙である。日本は確実に亡国の道を歩んでいるのではないかと危惧している。
まず「外患」については、コロナ禍がまだ世界的に収束しておらず、予断を許さない状況が続いている。
ウクライナ戦争についても停戦は容易ではなく、核戦争につながる危険性をはらんでいる。その上にロシアに対する経済制裁の結果として、世界的にエネルギーや食糧供給問題で不安が生じている。
さらに米国と中国による覇権対決が激化しており、世界分断に拍車をかけている。中国は台湾侵攻を視野に入れており、有事の際には日本は米国のお先棒を担いで中国と軍事的対決を強いられることになる。
安倍元首相は、防衛予算の大幅増額による「敵基地攻撃能力」や「反撃能力」の強化を提唱している。日本は軍事力の増強よりも、外交力の向上を図るべきであり、文化的安全保障策として、中国や韓国や台湾やASEAN諸国との観光交流に最大限に尽力すべきだ。
次いで「内憂」については、日本経済の長期低迷が問題である。日本の平均賃金はこの30年間にほとんど増えていない上に、現在は諸物価高騰に悩まされている。
スイスのIMD(国際経営開発研究所)が毎年公表している「世界競争力ランキング」によると、日本は1989~92年には第1位であったが、2020年には第34位に下落していて、かつて見下していた多くのアジア諸国の後塵(こうじん)を拝している。社会面でも少子高齢化に伴って人口減少が急激に進展しており、農山漁村部における衰退が顕著になっている。
「地方創生」が叫ばれているが、第1次産業は人手不足に悩んでおり、地方における医療・介護、教育、生活必需品流通、交通問題などが有効に解決されないままに衰退が確実に進行している。
今回の参議院議員選挙では早々に「自民党の圧勝」が予想されているが、自民党の政党支持率は4割程度であり、圧倒的支持を得ているわけではない。
岸田文雄首相は「聞く力」を看板にして「検討します」を連発するだけで「何もしない政権」と批判されているが、高支持率を得ている。要するに野党陣営は離合集散して自滅しており、与党に対抗できる政策立案能力を欠いている。
岸田政権は「新しい資本主義」を提唱しているが、内容的には極めてあやふやで不明確なままだ。岸田政権は安倍政権・菅政権ほどには「観光立国」に対して意欲的ではない。
ポストコロナを視野に入れると観光のあり方はより多様化するので、「観光の量的拡大」一辺倒ではなく、「観光の質的向上」に力点を置いて、地域の民産官学の協働によって資源を有効活用して「持続可能でしなやかな観光の創出」に努めるべきだ。
選挙後における「まともな観光立国」政策の構築を期待している。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)