【私の視点 観光羅針盤 316】米中対立と世界の平和 石森秀三


 新年を迎えたので気分一新して新春を寿(ことほ)ぎたいが、国内外ともに厳しい状況にあるため、気分の晴れないお正月だ。昨年10月ごろからコロナ禍が下火になり、政府は規制緩和を行って経済の立て直しを図ろうとした矢先に「オミクロン株」が登場した。WHO(世界保健機関)は早い段階で警戒レベルの最も高い「VOC(懸念される変異株)」に指定し、各国が警戒を強めている。

 日本でも感染防止対策が講じられるとともに、オミクロン危機による経済停滞への懸念が広がっている。企業は国内外で人の流れやサプライチェーン(供給網)が寸断されるリスクを憂慮している。さらに昨年来の原油価格の高騰でコロナ禍から回復途上にあった各種業界に苦境がもたらされ、各家庭においても光熱費や食品費などの諸物価の高騰で厳しい冬を迎えている。

 一方、世界に目を転じると、米中対立の激化によって世界秩序の不安定化が顕著になっている。

 米国はバイデン政権になってから「自由で開かれたインド太平洋」構想を打ち出して、米英豪印日の連携による中国包囲網の形成に力を入れてきた。12月上旬にはバイデン大統領の主催で「民主主義サミット」をオンライン開催し、110の国と地域を招待した。さらに今年2月の北京冬季五輪への各国首脳の不参加による「外交ボイコット」を提唱し、対中批判体制の強化を目指している。

 米国の攻勢に対抗して、中国はまずロシアのプーチン大統領と連携し、両国海軍の合同演習を実施して両艦隊が津軽海峡と大隈海峡を通過して日本に対する軍事的威嚇を行った。また中国は「民主主義サミット」に招待されなかった国々(トルコ、イラン、ミャンマー、タイ、ベトナムなど)との連携強化に力を入れている。

 さらにロシアは新年早々にウクライナに軍事的侵攻を行う準備を本格化させている。ウクライナの現政権は反ロシア・親EUであり、ロシアの脅威に対抗する軍事同盟NATO(北大西洋条約機構)への加盟を急いでいるため緊張が高まっている。

 同様に中国は、米国が台湾への接近を強めており、台湾有事に備えた米軍による台湾軍の秘密訓練が明らかになり、緊迫度が高まっている。中国は直ちに内政問題への介入だと抗議し、国の主権を守るための措置として台湾海峡での戦闘準備のための警戒パトロールを強化している。ウクライナ有事と台湾有事が現実化すると、世界はオミクロン危機に加えて、米中露対決による分断危機で苦悩することになる。

 コロナ禍は観光産業が「フラジャイルな産業」であることを鮮明にした。フラジャイル(fragile)は「壊れやすい」「虚弱な」「脆い」の意であり、観光産業は戦争やテロ、パンデミック、深刻な経済不況、大きな災害などの影響を受けやすい。

 観光産業は「壊れやすく、虚弱な産業」という面を克服できていないために、一国の基幹産業としての役割を十全に果たし難い面がある。一方で観光産業は「平和産業(Peace Industry)」なので「世界の平和を願う」アピールを強化すべきだ。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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