2回目の開催となる東京五輪が8月8日に閉幕した。日本のアスリートの大活躍で、金メダル27、銀14、銅17を獲得し、これまでで最多のメダル獲得となった。1964年の東京五輪では、金メダル16、銀5、銅8だったので、飛躍的にメダル獲得数が増えたと誤解しがちであるが、実は競技種目数が大きく異なっている。
64年大会では163種目だったが、今回は339種目へと倍増している。種目数の倍増に伴って、獲得メダル数が倍増しても不思議ではない。
前回の東京五輪の時に、私は大学1年生であった。テレビで東京五輪を観戦して、世界のトップアスリートに伍して頑張る日本選手に熱い声援を送った記憶がある。そして日本は東京五輪をきっかけにして先進諸国に伍して高度経済成長路線を突っ走った。
その背景には、60年安保闘争で退陣した岸信介首相に代わって登場した池田勇人首相が強力に推進した「国民所得倍増計画」が重要な役割を果たした。池田政権は経済成長によって、国民の生活水準を西欧先進諸国並みに引き上げ、完全雇用の達成、福祉国家の実現、所得格差の是正を図り、「減税、社会保障、公共投資」を三本柱として経済成長を強力に推進した。
日本は工業立国と貿易立国に成功し、資本主義圏では米国に次ぐ「経済大国」へと発展した。ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル教授は「ジャパン・アズ・ナンバーワン:アメリカへの教訓」という本を79年に出版し、81年にマレーシアの首相に就任したマハティール氏は「ルックイースト政策」を打ち出し、「個人の利益よりも集団の利益を優先する日本の労働倫理に学び、過度の個人主義や道徳・倫理の荒廃をもたらす西欧的価値観を修正すべし」という国策を推進した。
そういう意味で、64年の東京五輪をきっかけにして世界中から注目を浴びた日本であったが、今回の2度目の東京五輪では誘致決定後におけるさまざまなデタラメやゴマカシや不祥事によって「日本嫌悪」現象が世界中に広がっている。コロナ禍以前のインバウンド観光立国の成功によって、日本の「世界的好感度」は飛躍的に向上したが、東京五輪開催に伴う数々の醜態で日本の評価は地に落ちている。
コロナ禍の中で強行開催された東京五輪であったが、五輪開幕の7月23日の東京の感染者数は1359人であったが、その後のわずかの間にうなぎ上りに増え続けて5千人を超えるとともに、全国の感染者数も2万人を超え、各地の医療体制に深刻な打撃を与えている。
併せて緊急事態宣言やまん延防止等重点措置がダラダラと繰り返され、飲食業や小売業や旅行業など数多くの業種に深刻な打撃を与えている。国民の生命を軽んじるとともに、国民の暮らしを軽んじてまで、五輪開催にこだわった菅政権に対する批判は日に日に強まっている。
このままなすすべもなく、日本が漂流を続けるならば、日本の未来は暗いものにならざるを得ない。今こそ先人たちに学んでシステムチェンジに踏み込むべき時が到来している。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)