2月1日にクーデターを強行したミャンマー国軍によるデモ参加者への残虐な弾圧が国際的に大きな批判を浴びている。国民の生命を守るべき国軍が国民を虐殺しており、国際社会は国軍に対する圧力を強めるべきだが、国連安全保障理事会は中国とロシアが難色を示すために強い措置を発動できないままだ。
ミャンマー最大の支援国である日本は巨額の政府開発援助による事業を行うとともに、民間レベルでもさまざまな企業が積極的に投資を行っている。そのために中国と国軍の関係が濃密になることを危惧して明確な形で批判できていない。
ミャンマー市民が国軍によって虐殺されたというニュースを見るたびに心を痛め続けている中で、「ミルクティー同盟(MTA=Milk Tea Alliance)」と総称される若者の民主化運動がアジア各地に拡大していることを知った。私はミルクティー大好き人間なので、すぐにMTAへの関心が高まった。
MTAはミルクティーが大好きな地域で、特定の政治組織には属さないが、独裁や強権を嫌う若者たちによって進められている民主化運動。香港では2014年から民主化を求める「雨傘運動」が展開されたが、中国は20年6月に「香港国家安全維持法」を成立させ、民主化運動を弾圧している。
台湾では香港支援、中国共産党批判運動との関わりでMTAが高まり、タイでも軍事独裁に対する民主化要求と国王ラーマ10世による浪費・強欲に対する王室批判がセットになってMTA志向が高まっている。さらにミャンマーでも国軍による市民弾圧が続く中でMTAに連動する民主化運動が高まっている。
ところが20年6月に開催された国連人権理事会では中国による香港国家安全維持法導入の賛否が問われ、導入反対27カ国に対して、導入賛成が53カ国。中国に賛同の国々の多くは中国の強大経済圏構想「一帯一路」の参加国や独裁体制の国々が多いとはいえ、国連の場で賛同を得ているのも事実だ。
同様に、19年7月に開催された国連人権理事会で中国新疆ウイグル自治区での人権侵害に関連して中国を非難する共同書簡が提出されたが、賛成22カ国、反対37カ国で否決されている。
一方、MTAに参加する香港、台湾、タイ、ミャンマーの若者に共通するのは「中国嫌い」と「日本のアニメや民主主義に対する親近感」だ。シンガポールのシンクタンク・ISEASユソフイシャク研究所(旧東南アジア研究所)は毎年、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の世論調査を行っている。20年2月の最新世論調査では「中国を信頼していない」が63%、また「同盟国として米中のどちらを選ぶか」では米国が61%。さらに日本への信頼では「信頼している」が67%で、「休暇に行きたい国」でも日本は30%でトップだ。
今後、米中による覇権争いが激化する中で、日本外交は賢明な判断を強いられることになる。されど、観光立国の観点からはASEAN重視が妥当であり、MTAに対する理解と効果的支援が必要不可欠になるだろう。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)