【私の視点 観光羅針盤 246】FECT重視の地域再生 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三

  • 2020年7月6日

 日本では最近、アフターコロナを前提にした有識者による諸々の提言が盛んに行われている。例えば、北海道では今年1月に始まった7空港民営化が苦境に陥っているために、空港を起点にした2次交通の充実を支える高規格幹線道路整備の推進が提言されている。確かに周遊観光流動の創出のためには貴重な提言であるが、本当に「観光ファースト」でいいのだろうか?

 経済評論家の内橋克人氏は長らく新自由主義や市場原理主義の弊害を糾弾し、例えば「FEC自給圏」の必要性を提言してこられた。Fは食糧、Eはエネルギー、Cは介護や福祉を意味しており、人間の生存に不可欠のFECを自給自足できる圏域の形成を図って、「暮らしの安定」を生み出すべきと主張しておられる。

 私は内橋モデルをより発展させて、地域づくりにおけるFECTの重要性を提唱している。Fはfoodsで第1次産業としての「農林水産・酪農業」、Eはenergyとeducationで「再生可能エネルギーと教育」、Cはcareやcureで「介護や医療」、cultureで「地域文化」、Tはtrafficで「交通」、tourismで「観光」などを意味している。

 北海道における地域づくりを考える時に、まず食糧生産につながる農林水産・酪農業の重要性は圧倒的だ。都道府県別の食糧自給率(カロリーベース)において、北海道は221%で堂々の1位であるが、現実には人手不足が深刻化している。されど、北海道の生命線は第1次産業の安定的発展であることは事実だ。

 次いで、北海道は再生可能エネルギーの宝庫であるにもかかわらず、各地で生かされていない。教育についても人口減少に伴う高校の統廃合が進んでいて教育問題が深刻化している。また介護や医療についても病院の統廃合や医師・看護師・介護士の不足で地域医療は十全ではない。

 同様にさまざまな地域文化についても若者が都市部に引き寄せられて担い手がいなくなっている。交通についてもJR路線の維持が困難で、地域バスの運転手確保も容易ではない。観光も地域の発展のために重要であるが、現時点では多くの若者にとって魅力ある仕事とは見なされていない。

 観光はこれまでさまざまな専門的要素が絡む「複雑系システム」で動かされてきたので、地域のほとんどの住民にとっては「他人事」と受け止められてきた。地域住民にとっては日々の暮らしに直結する食糧や医療や福祉や教育や交通の方がはるかに重要であり、観光が地域の未来に直結するとは見なされていない。

 いかに為政者が「観光立国」と叫んでも、市井に生きる人々はまず自分たちの日々の暮らしに直結するFECTに係わる諸課題の解決が最優先と感じている。コロナ禍を通して「観光ファースト」よりも、もっと大切な物事が軽んじられてきたことが明白になった。そのため観光業界は相当の覚悟をもって「観光が公益に資する」ことを明確にアピールし続ける必要がある。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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