【私の視点 観光羅針盤 220】子ども権利条約と教育 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三

  • 2019年12月9日

 1989年は世界的に大転換の年であった。6月4日に中国で天安門事件が発生し、11月10日にはベルリンの壁が崩壊、12月2日の米ソ首脳会談で東西冷戦終結宣言がなされた。実はあまり知られていないが、同年11月20日に開催された国連総会で「子どもの権利条約」が採択されている。

 この条約はConvention on the Rights of the Childが正式名称で児童(18歳未満の者)の権利について定めた国際条約。日本では「児童」が一般的に小学生を指しているために本稿では「子ども」という語を用いる。

 日本では94年に国会でこの国際条約が批准されて効力が発生している。批准国は「子どもの最善の利益のために行動しなければならない」と定められている。

 近年、親が子どもを虐待したり、殺したりする事件が頻発しており、社会問題化している。子どもの貧困化についても深刻さが高まっている。日本では90年代半ば以降に子どもの貧困が深刻化した。

 日本経団連は95年に「新時代の日本的経営」を公表し、終身雇用の適用範囲の限定化を進めて、非正規雇用への切り替えを促進させた。

 その結果、報酬の少ない非正規雇用が増加し、国民の7人に1人が貧困状態に落ち込んでいる。特に1人親世帯の貧困率は50%を超えており、親の貧困が子どもの教育機会の制約を生み出し、「貧困の社会的連鎖」が深刻化している。

 日本では貧困家庭の子どもたちに温かい食事を提供する「子ども食堂」が全国で2200カ所以上も開かれている。また「放課後児童クラブ」でも補助員が配置されて、恵まれない子どもたちへの勉学指導が行われている。

 一方、日本では2005年に「食育基本法」が国会で成立している。子どもが豊かな人間性を育み、生きる力を身につけていくためには「食」が重要であり、食に関する知識と食を選択する力を習得し、健全な食生活を実践できる人間を育てることが「食育」の目的だ。

 食育も大切であるが、それ以上に「旅育」が重要だ。非日常の時空間を旅することによって、未知の世界や未知の人々や未知の物事に出会う。それらの未知との出会いを通して、子どもたちは豊かな人間性を育み、生きる力を身につけていくことができる。そのような子どもたちに対する「旅行の教育効果」について、もっと適正に認識されるべきだ。それは「子ども権利条約」の批准国としての責任でもある。

 現実には子どもの貧困化が進行する中で、旅行機会に恵まれない子どもが数多く存在している。今こそ観光・旅行業界は「旅育推進法」の制定を提唱して、子どもたちに対する旅行機会の振興を図るべきだ。インバウンドの隆盛化とは裏腹に日本人による国内旅行は低迷し続けており、「旅育」推進を起爆剤にして、日本観光のバランスのとれた適正な発展を促進する必要がある。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

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