【私の視点 観光羅針盤 204】縄文世界遺産登録への期待 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三


 7月末に開催された文化庁文化審議会世界文化遺産部会において「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産推薦候補に選定された。2007年に4道県(北海道、青森県、秋田県、岩手県)の知事サミットで提案され、09年に世界文化遺産暫定一覧表に記載されて以降、ようやく推薦候補に選定された。

 今後はユネスコに対して推薦書を提出し、20年にICOMOS(国際記念物遺跡会議)による現地調査が実施され、ICOMOSによる評価結果の勧告を経て、21年夏に開催されるユネスコ世界遺産委員会で審議され、登録の可否が決定される予定だ。

 私は06年に「北の縄文文化を発信する会」の代表幹事に選ばれ、その後に「北の縄文道民会議」の副代表を務めてきたので、大変うれしく感謝している。

 北海道・北東北の縄文遺跡群は、日本を代表する大規模集落群「三内丸山遺跡」をはじめ、17の構成資産から成っている。約1万5千年前の定住化から本格的な稲作の開始まで、東北アジアにおいて採集・漁労・狩猟を基盤として1万年以上も続いた縄文文化の変遷を示している。

 農耕以前における人類の生活のあり方と、世界最古級の土器や漆器、芸術性豊かな土偶などに象徴される高度で複雑な精神文化を示す物証が存在しており、採集・漁労・狩猟文化が極限まで発達したことが示されている。津軽海峡を挟んで文化圏が形成されるとともに、遠方との交易も活発で縄文文化を代表する地域である。

 世界文化遺産登録を視野に入れて、北海道・北東北の縄文遺跡群が有する顕著な普遍的価値(OUV)を、国内外からの来訪者にいかにより良く伝えるかが重要になる。そのためにガイダンス施設の整備、多言語による解説ガイド、体験プログラムの充実化などが求められている。今後、構成資産を有する4道県と13自治体ならびに地域団体・住民による「民産官学の協働」にもとづいて、顕著な普遍的価値の維持・公開・活用の持続的な推進が重要になる。

 いま世界的に強欲資本主義、金融資本主義、市場原理主義などによる貧富の格差の拡大が厳しく批判されており、近代文明の功罪がさまざまなかたちで問題視されている。一方で、15年に国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現が世界的課題になっている。

 SDGsは持続可能な発展のために各国が2030年までに達成すべき目標として採択されたもので、「環境」「社会」「経済」のバランスのとれた持続可能な発展が意図されている。現代的課題であるSDGsを考える上で、1万年以上にわたって自然と共生しながら、平等志向や再生志向にもとづいて安定的な暮らしを維持してきた縄文文化から学べることが数多くある。

 北の縄文遺跡の世界遺産登録をきっかけにして、近代文明の功罪を考えるスコーレ・ツーリズム(学び観光)の進展に期待したい。

 (北海道観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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