【私の視点 観光羅針盤 194】日本遺産としての「炭鉄港」 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三


 文化庁は5月20日に今年度認定の日本遺産16件を公表した。日本遺産は有形、無形の文化財をテーマや地域ごとに一括認定するもので、2020年までに100件登録する目標を掲げている。

 19年度は「みちのくGOLD浪漫:黄金の国ジパング、産金はじまりの地をたどる」「里沼(SATO―NUMA):『祈り』『実り』『守り』の沼が磨き上げた館林の沼辺文化」「海女(Ama)に出逢えるまち鳥羽・志摩:素潜り漁に生きる女性たち」「1300年つづく日本の終活の旅:西国三十三所観音巡礼」「藍のふるさと阿波:日本中を染め上げた至高の青を訪ねて」「神々や鬼たちが躍動する神話の世界:石見地域で伝承される神楽」「琉球王国時代から連綿と続く沖縄の伝統的な『琉球料理』と『泡盛』、そして『芸能』」など16件が認定され、これまでに83件が認定されている。

 19年度に認定された日本遺産のうちで、私は北海道の8市4町の共同申請による「本邦国策を北海道に観よ!:北の産業革命『炭鉄港』」を高く評価している。炭鉄港は、空知の炭鉱、室蘭の鉄鋼、小樽の港湾とそれらを結ぶ鉄道の歴史や産業遺産を含んでいる。

 1870年代以降に開坑した空知の炭鉱跡や立て坑やぐら、1880(明治13)年に国内3番目に整備された札幌―小樽・手宮間の鉄路跡など45件を「構成文化財」としている。石炭、鉄鋼、港湾が鉄道で結ばれ、日本の近代化を支えた歴史をストーリー(物語)として日本遺産に申請したものだ。戦後における国のエネルギー政策転換による衰退、その後の産業遺産を活用した観光振興など、新たな挑戦も盛り込まれている。

 今回の日本遺産としての「炭鉄港」は、赤平、小樽、室蘭、夕張、岩見沢、美唄、芦別、三笠の8市と栗山、月形、沼田、安平の4町が共同申請を行った。日本の経済成長を支えた「炭鉱(ヤマ)」の遺構としての「空知の炭鉱関連施設と生活文化」は、すでに北海道遺産として選定されているが、これらの12市町は2018年7月に新たに「炭鉄港推進協議会」を設立して、各地の産業遺産の教育や観光への活用を検討してきた。

 12市町は最も離れた自治体で約180キロの距離があり、複数の自治体や団体による広域連携が課題だ。道内の旧産炭地などを中心にして、日本遺産として広域観光の促進が大いに期待されている。

 「炭鉄港」は、すでに15年に世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産:製鉄・製鋼、造船、石炭産業」との連携を図っている。特に、鹿児島県の島津興業「尚古集成館」との協働を積み重ねており、このたび北海道開拓と近代化の骨格となった「北の産業革命」というストーリーの形成に至ったものである。岩見沢のNPO法人「炭鉱(ヤマ)の記憶推進事業団」(吉岡宏高理事長)の長年にわたる尽力が結実したものであり、高く評価したい。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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