【私の視点 観光羅針盤 186】防災観光への期待 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三


 2011年の東日本大震災発生から丸8年の歳月が過ぎた。震災死者1万5897人、行方不明者2534人、震災関連死3701人。私は関西出身の人間なので、私の親族・友人・知人の中で東日本大震災で亡くなった人はいない。されど、今でもあの大津波の映像を見ると、ただただ涙があふれ出てくる。

 大震災で亡くなった方々だけでなく、「アノヒカラ・ジェネレーション」と呼ばれる数多くの方々が存在する。大震災で親や子や親族を失くした方々、友人・知人などを失くした方々、今でも避難生活を余儀なくされている約5万4千人の方々など、大震災でその後の人生が大きく変わった方々のことを思うと胸が締め付けられる。

 先日、札幌で日本コンベンション研究会・さっぽろMICE推進委員会の主催による「国際観光コンベンションフォーラム2019in札幌」を開催した際に、東北大学災害科学国際研究所の柴山明寛准教授による講演「被災現場から学ぶ防災・減災」を聞く機会があった。

 1970年代から全世界的に災害が急速に増加していること、日本は自然災害危険性が全世界で5位に位置付けられていること、東日本大震災から学べることが数多くある点を教えていただいた。

 その上で柴山准教授は、宮城県や仙台市などが中心になって推進している「防災観光(BOSAI Tourism)」プログラムによる「東日本大震災からの学び」の事例を紹介してくれた。数多くの自然災害を乗り越えた経験と東北地域の豊かな自然・文化・産業を世界に伝えるための「防災観光プログラム」である。

 例えば、東日本大震災発生時の避難の違いを学ぶコース、商業やなりわいを見ながら復興の過程を学ぶコース、過去の災害の歴史から防災文化と復興について学ぶコース、復興商店街を回りながら復興まちづくりについて学ぶコース、ジオを通して自然の美しさや怖さを知り、防災・減災へとつなげるコースなどがある。「防災+観光」によって災害に対する知識を深めることができ、災害が発生しても臨機応変に対応できる人材を育てたいという視点は重要だ。

 東京都墨田区では、「防災観光ふろしきプロジェクト」が推進されている。防災マップを風呂敷と組み合わせて、それを次世代の防災の担い手となる小学生に配ることによって防災意識の高まりが期待されている。このプロジェクトの資金集めには、クラウドファンディングが活用されている。

 観光業界は民産官学の協働で、訪問先の土地勘の無い観光客に対する「観光危機管理計画」の策定を積極的に促すべきだ。今後さまざまなかたちで「防災+観光」の試みが各地で展開され、効果の上がることを期待している。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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