3月下旬、昨年に引き続きイタリアアペニー山脈の山あいにあるポルティコ・ディ・ロマーニャ村に行ってきた。村の概要は、昨年の6月17日付本欄で紹介したので省くが、人口わずか350人。しかし、世界33カ国から7万人近い観光客が訪れる元気な村だ。
今回は、筆者が塾長をしている「信州・観光地域づくりマネジメント塾」のメンバーが一緒だった。長野県大鹿村、木曽町など小さな町村の未来を担う志高い若手8人。同じような条件の村がいかに元気になったのか、という問題意識を持った塾生ばかりだ。
わずか2泊3日の滞在だったが、結婚して故郷に戻り、30数年間観光地域づくりに取り組んできたホテル・レストラン経営者、マリーザ・ラッジとその家族がずっと一緒に過ごしてくれた。そのおかげで、じっくりと小さな村の取り組みを勉強できた。
村の暮らしの体験を通して、日ごろ観光地域づくりに苦闘するメンバーは大きな自信を得たようだ。35年前までは観光業など全くなかった村が、観光により豊かな地域づくりに目覚め、取り組んだ実績が、彼らの活動に指針を与えてくれたからだ。
例えば、マリーザは住民を巻き込むために秋の収穫祭やキリスト生誕祭など、地域に根差したイベントを発案し、自ら取り組んだという。その結果、住民がメイン通りの飾りつけなどに協力してくれるようになり、今では、町内会など地域ぐるみの活動になった。
また、北欧などの質の高い滞在客を獲得しようと、早くから世界への発信に取り組んだという。そのために、外国人のためのイタリア語教室とパスタづくりなど村の暮らし体験をセットにした滞在プランを自ら考えた。この時もスイス人グループが2週間滞在していた。しかし、このような住民の活動に対して行政の支援は全くないという。そういえば昨年面談した村長は「観光予算が十数万円程度しかなく、村人の活動に頼っている」と語っていた。州政府も観光地ではない村には全く支援してくれない。
マリーザは「すべて自分たちだけで実践してきた。当然リスクも負ってきた。だから、小さなプロジェクトの積み重ねでここまで来た」と、しみじみ語っていた。結婚を機に隣村に来た日本人女性は「マリーザの笑顔がここまで村をけん引したのよ」とささやいてくれた。
翻って、わが国の観光地域づくりやその司令塔であるDMOを巡っては、「稼ぐ」とか「観光地経営」など大上段に振りかぶる風潮が蔓延している。しかし、観光地域づくりとは住民が来訪者とともに楽しむ小さな活動、スモールビジネスの積み重ねだと、イタリアの小さな村は教えている。
(大正大学地域構想研究所教授)