日本ではほとんど知られていないが、3月20日は国際連合が総会で定めた「国際幸福日(International Day of Happiness)」である。2012年6月の国連総会で193カ国の加盟国が満場一致で議決した国際記念日だ。
幸福の追求は人間の営みの核心をなすものであり、自然との調和の中で恐怖や欠乏のない幸福で充実した生活を送ることは全世界の人々の共通の望みである。幸福追求のためには物質的な経済成長ではなく、より公平でバランスのとれた成長が必要として「国民総生産(GNP)よりも国民総幸福(GNH)こそが重要」と主張するブータンによる提唱が全世界で認められたことになる。
国連は13年から毎年3月20日に「世界幸福度ランキング」を発表している。昨年発表されたランキングは世界155カ国の各国それぞれ約3千人を対象にして行った「ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)」に関するアンケート調査にもとづいている。
人生に「幸せ」を感じる度合いと「不幸せ」を感じる度合いについて六つの指標で分析している。6指標は、(1)1人当たり国内総生産(GDP)(2)社会的支援の有無(3)健康寿命(4)人生選択の自由度(生き方を自由に選択でき、満足しているか)(5)寛容さ(過去1カ月間に慈善事業に寄付したか)(6)腐敗認知―。
17年の幸福度ランキングのトップ10は、1位ノルウェーで、以下、デンマーク、アイスランド、スイス、フィンランド、オランダ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、スウェーデンの順。北欧5カ国がトップ10入りしているのは、社会的支援の充実、人生選択の自由度、社会腐敗の少なさ、寛容さなどが実現されているためだ。一方、日本は51位でG7諸国の最下位、またOECD加盟35カ国の27番目。
世界第3位の経済大国ではあるが、幸福度の低さは残念至極である。日本は健康寿命で優れているが、4割を超える非正規雇用、自殺者を生む長時間労働、「保育所落ちた日本死ね!」に象徴される社会的支援の不十分さ、寄付しない国民性などの影響で低位にある。
日本でも1990年代初頭にバブル経済が崩壊してから観光のあり方が見直される中で「観光」に代わって、新たに「感幸」というコンセプトが提唱され、さまざまに議論されたことがある。その要点は、観光という営みにおいてホストとゲストの双方が「幸せ」を感じることのできるあり方(感幸)の創出であった。
「持続可能な観光」の推進が世界的課題なので、日本の観光業界は3月20日を「感幸の日」と定めて、ホストとゲストの双方が幸せを感じられる観光のあり方について社会的アピールを行い、日本人による国内旅行の低迷に歯止めをかけるべきだ。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)