【私の視点 観光羅針盤 127】駅をまちのにぎわい拠点に 清水慎一


 大都会の駅は「エキナカ」の展開などますます進化し、ショッピングセンターと見まがうばかりのにぎやかさだ。それとは対照的に地方、とりわけ人口数万人程度の自治体にある駅の惨状は目を覆うばかりだ。売店どころか駅長はいなくなる。さらに駅員もいなくなる。

 図書館など公共施設を合築していれば何とかにぎわいを維持できるが、鉄道事業者だけが運営している駅は寂れる一方だ。中には、経費節減のためと称して由緒ある駅舎が壊され、かまぼこ型のような全くつまらない建物に建て替えられた駅もある。

 筆者の故郷・長野県小諸の駅も、1997年の新幹線開業に併せてしなの鉄道に移管されて以降、年を追って寂れてきた。食堂がなくなり、キオスクがなくなり、今やわずかの駅員が残るだけだ。かつての特急停車駅の名残でただっ広い駅舎には寂寥感が漂う。

 帰郷するたびに惨めな思いをする筆者は、数年前「小諸DE夢を語りたい」をテーマに住民と行政、各種団体を交えたワークショップを立ち上げた。「駅や周辺をまちのにぎわい拠点にしないと、まちが元気にならない」という問題意識が底流にあった。

 ワークショップでは、駅や駅前広場などの活用策をめぐってさまざまな論議が交わされた。マルシェ、ビヤガーデン、屋台村など駅を中心に住民と来訪者の交流の場をつくり、まちのにぎわいを復活したいという住民の思いがほとばしるようなアイデアが、次から次へと出てきた。

 早速、昨年の「こもろ観光局」(日本版DMO)設立に併せて、まちなかにあった観光案内所を駅内に移転させ、物産の販売やレンタサイクルなどを始めた。だが、駅舎が鉄道事業者の財産だけに、手続きや料金など難問が立ちはだかり、簡単にはいかなかった。

 こんな現実に直面して、筆者はホームを除く駅舎や駅前広場を全て自治体の財産にし、その運営をDMOに委ねたらいいと提案した。自治体にとって、建物修繕など新たな負担がかかるが、地域の拠点や観光の拠点として自由に使えるメリットは大きいからだ。

 ちなみに、岡山県真庭市にある中国勝山駅は先行モデルだ。城下町の玄関口にふさわしい駅舎に改築するとともに、真庭観光連盟が出札業務はもちろん、観光案内所、売店などを運営している。駅のにぎわいが復活した結果、住民だけではなく観光客も立ち寄る拠点となり、そこからつながる商店街のにぎわいも維持できたという。

 採算を求める鉄道事業者として見れば、乗車人員が少ないところは乗降さえできればいいのだから、無人化、コンパクト駅舎化も当然だろう。しかし、駅はこのような企業の私的な利潤追求によってその公共性を喪失してはならない場所である。(原田勝正「駅の社会史」中公文庫)

 公共空間としての駅をまちのにぎわい拠点とするために、鉄道事業者や首長・行政など関係者を交えた論議をもっと深めていきたいと思う。

 (大正大学地域構想研究所教授)

 
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