【私の視点 観光羅針盤78】トランプ旋風は吉か凶か? 石森秀三


 2016年1~10月に日本を訪れた外国人旅行者数が2千万人を突破した。今年内に2400万人に達すると予想されている。20年のインバウンド4千万人の実現に向けて着実に進展していることは素晴らしい。

 ところが11月8日に投開票された米国大統領選挙で大方の予想に反して、共和党のドナルド・トランプ氏が当選した。トランプ氏は全く政治経験がない上に、過激で差別的発言を繰り返し、「米国第一」という極端な保護主義を掲げていたので、当初は泡沫候補とみなされていた。

 果たして、トランプ旋風は世界にとって、とくに日本の観光立国にとって、吉なのか、凶なのか、が問われている。

 大統領選に敗れたクリントン氏は伝統的なグローバリズムに比重を置いた「オープンな米国」を唱えたが、トランプ氏は「米国第一」というスローガンの下でナショナリズムに傾いた主張を繰り返した。1980年代以降におけるグローバリズムの進展に伴って、米国では自由貿易と移民受け入れが促進され、中低所得層は大きなダメージを受け、貧困化に拍車がかかった。

 グローバリズムよりも「米国第一」というナショナリズムを前面に打ち出しているため、トランプ政権は環太平洋経済連携協定(TPP)に反対し、既存の北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しに着手するだろう。そのような動きは日本にも大きな影響を与えるはずだ。

 グローバル化によってヒト・モノ・カネがより自由に世界を行き来し、世界を変えてきた。ところがいま世界的にグローバリゼーション・ファティーグ(グローバル化疲れ)が顕著になりつつある。英国は昨年11月の国民投票でEU(欧州連合)からの離脱を決定した。

 いわゆるBrexit(ブレグジット)だ。その最大の原因はグローバル化疲れとみなされている。英国に続いて、米国でもまたトランプ旋風が起こり、80年代以降に生じたグローバル化の流れに大きな転換が生じつつある。

 日本は安倍政権の下でグローバリズムを前提にしたアベノミクスで国を動かしているが、現実には働く人の約4割が非正規雇用になり、生活保護受給世帯が過去最多の約163万世帯に及んでいる。これはグローバル化に伴う格差拡大の結果だ。

 「グローバル化」は観光立国に吉であるが、「グローバル化疲れ」は観光立国に凶となりうる。そのため観光庁や観光産業は今から周到に対応策を練る必要がある。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

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