
ある時、いつもと同じような容器に入ったいただき物の味付け海苔(のり)を食べたところ、子供心に「あんまりおいしくない。どうしてだろう」と不思議な気持ちになったことがありました。海苔に質の差があるなど考えもつかない幼い頃の残念な気持ちは、いまだに忘れることができません。子供時代の味覚は案外鋭く、記憶にも残ると実感しています。
昆布や日本茶、トマトなどに多く含まれるグルタミン酸、かつお節や煮干し、肉などの動物性の食材に含まれるイノシン酸、干し椎茸(しいたけ)などの茸(きのこ)類に含まれるグアニル酸、これらのうま味を全て含んでいる天然の食材は、海苔以外に見当たらないとのこと。うま味成分が豊富な海苔が万人に好まれるのは当然のことなのでしょう。
さらに、たんぱく質、ビタミン、ミネラルなども豊富に含まれているノンカロリー食材として、海外でも、和食と共に海苔の認知度はますます高くなってきています。
また、最近注目されている葉酸も海苔には多く含まれています。「日本人は黒い紙を食べている」と奇妙に思われていた時代など、はるか昔の感です。
さて、色がまた剥げそうだけど、大事な海苔缶をきれいに拭きましょうか。
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海苔の話題が出たところで、話を続けます。
野菜も果物1年中出回り、個々の旬が曖昧になってきている昨今ですが、特に新海苔の採れる時期は、あまり認知されていないように感じています。
その年の気候によって多少のずれはありますが、11月下旬、最初に採れる新海苔を「秋芽」と呼びます。「秋芽」の若い、柔らかい風味は格別で、とろけるようなうまさと新鮮な磯の香りがします。ただし、収穫量はそれほど多くはないので、「採れたてを、すぐに焼いてお渡しします」と、小回りの利く販売ができるのも、小規模な店ならではの強みでしょうか。手に入る範囲で最高の品質を求めますので、弊店では予約限定数量のみのご用意です。
また、収穫時の有明海の状況次第で満足できる海苔がご提供できないと判断した場合は中止もあり得ます。15年ほど前に新海苔の予約を始めてからは、台風の影響や海水の温度など、海の状況に気をもむようになり、秋が近づくと、気象予報士にでもなったような気分です。春の新茶摘採時期の心境も同じようなものですが。
「今年もお願いね。楽しみにしているわ」と、ご予約案内を出す前に声を掛けて下さるお客さま方に感謝しつつ、「今年も、おいしい海苔がご用意できますように」と、祈るような気持ちです。