付加価値求める消費者も
2017年の旧正月(1月28~31日、4連休)時期、香港から伊勢志摩への超豪華ツアーが催行された。日本通タレントのヘレン・トーさんが同行し、高級温泉リゾートでの宿泊や老舗料亭旅館での松阪牛会席料理などを満喫する内容だ。旅行費用は何と1人、8万8888香港ドル(約130万円)。主要メディアである蘋果日報でも取り上げられるなど、注目を集めた。
また、これほど高額ではないが、50万円程度の豪華グルメツアーを数社が造成している。さらに著名写真家が同行する撮影ツアー、芸能人のディナーショーを楽しむ旅、沖縄での魚釣りのツアー等々、各社が特徴的商品の取り扱いに工夫をこらしている。
消費者のニーズの多様化が、旅行会社各社の取り組みの主な背景の一つとなっている。後述する通り香港は最も成熟した訪日旅行市場であり、特別な体験や新しい目的地のニーズが多い。各社とも独自色のある商品の造成などによる他社との差別化に取り組んでいる。
また、OTA(オンライントラベルエージェント)やLCC(格安航空会社)を利用した個別手配型FIT(個人旅行者)の顕著な増加に伴い、従来型旅行会社のビジネスが容易でなくなっていることも、上記の状況の背景の一つだ。FIT比率は約90%に達しており(図表)、主要旅行会社の中には、遠からず95%程度になるとの見方もある。消費者が独自にはなかなか手配できない商材などの取り扱いに各社が腐心している状況だ。
香港経済は目下のところ低迷しており、旅行業界にはその影響を懸念する向きもあるが、消費者の海外旅行意欲は旺盛だ。空路での海外渡航者数は、16年には対前年比8・1%増の約1128万人に達している。海外移民に関する最近の意向調査によれば、4割近くが移民に肯定的であり(※注釈参照)、この「脱出願望」が海外渡航者数増加の一因でもあると推測される。
海外旅行先としては日本の人気が最も高い。16年の訪日香港人旅行者数は約184万人となり、対前年比は20・7%増で海外渡航者数の伸び率を大きく上回った。「安心して快適に旅行が楽しめる目的地」というイメージが浸透しているのが、日本の強みの一つだ。
ただし、訪日旅行のリピート率が8割強、訪日旅行者数の人口対比が4人に1人という、最も成熟した訪日旅行市場であるため、香港の消費者を飽きさせない工夫が必要だ。前述の状況を踏まえて、FIT向けに最新の深掘りした情報の発信を強化するとともに、消費者のニーズの多様化を踏まえた旅行会社各社の取り組みを着実に支援していくことが望ましい。
冒頭で紹介した超豪華ツアーを催行した旅行会社の役員は「それだけのお金を使う顧客が確かにいる。ただし価格に見合う価値を彼らに示すことが重要だ」と言う。LCCが市場をけん引しているのは確かだが、付加価値のある高品質な旅のニーズも決して少なくない。香港からのさらなる誘客を図る上で、質、量の両面での取り組みを強化することが望ましい。
※注釈:香港中文大学による調査。16年9月、18歳以上の市民710人を対象に行われた。