【日本ふるさと紀行 19】柳川(福岡県)~詩人・北原白秋の故郷 中尾隆之


どんこ舟に旅情が揺れる水郷の町

 福岡県南西端の柳川は筑後川の河口にひらけた城下町。水運と防衛を兼ねた水路が網の目のように巡る水郷としても知られている。

 どんこ舟が柳川観光の流儀といわれて、乗り合いの舟にまず乗った。「水路は総延長60キロ。水門の開閉で水量が調節できる仕掛けになっている」などと船頭さんはガイド。舟は棹1本でゆっくり滑らかに進んだ。

 城跡の石垣や民家の裏口をかすめ、石橋をくぐり、赤レンガ蔵や土蔵を眺める。朗誦する何首かの北原白秋の歌を聞きながら小1時間の川下りは、白秋の生家に近い沖の端が終点だった。

 歩いて3分ほどのなまこ壁と格子窓の蔵造りの白秋生家と奥の記念館には、当時の暮らしぶりや白秋の生涯や遺品、作品が見られた。

 展示によると北原家は廻船問屋に始まる福岡有数の酒造家。長男に生まれた白秋は「トンカジョン(大きなお坊ちゃん)」と呼ばれ裕福に育った。16歳の時、大火で母屋を残して多数の酒蔵を焼失して家業が傾く。

白秋は没頭していた詩歌への思い止みがたく、家出同然に19歳で上京する。与謝野鉄幹や石川らと交友。出した詩集『邪宗門』が賞讃され、2年後の抒情小曲集と題する『思い出』で、いっそう白秋の名を高めた。

「色にして老木の柳のうちしだる我が柳河の水の豊けさ」と讃えた柳川と破産した実家への懐旧の念あふれる作品だ。思慕し続けた故郷だが、人妻との恋愛事件、結婚・離婚、度々の転居など帰るに帰れなかった。

 しかし20年後の帰郷の時は、地元の人に熱烈な思いで迎えられた。ふるさとの温かさだろう。

 白秋が少年時代に遊んだ漁師町の沖の端は水天宮や藩主別邸御花、観光案内所、名物のうなぎセイロ蒸しの店など白壁の民家と柳並木が並ぶ趣深い一角である。

 絶筆となった『水の構図』に「柳河は我が詩歌の母體」と書くほど敬慕した柳川は今、さげもんに飾られる雛祭り(4月3日まで)で華やいでいる。

 (旅行作家)

 ●柳川市観光課TEL0944(73)8111

 

 

 

 
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