【旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 182】新型コロナウイルスへの経営対応69 原理原則6 高付加価値化3 佐野洋一


 さて、高付加価値化の方策について考えていきたい。 

 旅館には付加価値を高めようと思えばできるステージがいろいろとある。いくつかの場面ごとにポイントを挙げてみたい。当たり前のことも含まれるが、その当たり前が「付加価値を生んでいるか」、あるいは当たり前にやっていないことで「価値を下げてしまっていないか」という目で、現場を見ていただくと良いかと思う。

 (3)玄関まわり

 玄関は宿の第一印象となる場所である。そのことが忘れられていないだろうか。

 「わ、ステキな旅館!」「まあふつうの旅館かな」「なんだか残念な旅館だな」…。このような印象が、玄関に入った瞬間にかなり決まる。経営者も従業員も、毎日見慣れているので何とも思わなくなってしまっているが、多くのお客さまにとってこれは初めて目にする景色なのだ、ということを、常に意識しておきたい。建物の構えやお金のかけ具合による建築グレードの差などは仕方ないが、それだけで決まるわけではない。建築的には同等でも、営む人の商売姿勢によってこれほど印象に違いが出るのか、という例を、筆者はいくつも見てきている。

 基本的には「きちんとする」ということだ。まず余計なものを極力置かずにスッキリさせる。いろんなものをわざと雑多に置くことで、一歩足を踏み入れた瞬間ににぎやかさや華やかさを印象付けたり、独自の世界に包み込んでしまうようなムードづくりの方法もあり、それはそれでよいが、そうでなければ、意味のない置き物、飾り物などは、思い切って取り除こう。一番いけないのは、「あるからロビーに飾っとこう」という態度だ。モノよりも、宿の品格の方がはるかに大事なのである。「これをどこに置こうか(飾ろうか)」ではなく、「ここには何か置く(飾る)べきか」「ここに置く(飾る)意味のあるものは何か」という発想で考えていただきたい。また注意したいのは、いつの間にか増える掲示物(貼り紙など)だ。こういうものが1枚増えるごとに、宿の品格は1ランク下がると思ってよい。

 こうして、まずは端然として厳かな「場」をつくる。その上で、例えば広い空間なら、それに負けないボリュームのフラワーアレンジメントなどを据える。またそれほど広くない場所なら、上品な台か、床の間に見立てた壁にスッと一輪挿しを飾る。そしてこれを斜め上からスポットライトで照らし、しっかり浮き立たせる。BGMをどうするか考える。ほのかに香をたく。玄関先には温かいあんどんを配し、きれいに掃き清めて打ち水をする―このようにして、玄関まわりを一種の「作品」のようにつくり上げていくことを、やってみてはいかがだろうか。これまでとは見違えるような玄関になるかもしれない。

 玄関ロビーでお着きのもてなしを行っている旅館なら、ここでも工夫が考えられる。ただお茶を出すだけではあまり付加価値にならないが、もう少し手間をかけて抹茶にすれば、印象に残る価値となるだろう。またお茶請けの菓子なども、同じ出すなら月並みなものでなく、品格や個性を感じさせるものを選びたい。だが決してお金をかけることに意味があるのではない。「付加価値づくり」を意識することなのである。

(リョケン代表取締役社長)    

 
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