
(7)現場からの「生」情報
そもそも情報という言葉は少しいかめしく、書類に表されたようなものとか、データのようなものがイメージされるかと思う。また情報というと、とかく「外」から取ってくるものと考えがちだ。
そういう情報ももちろん大事だが、一番大事にすべきなのは自館に関する「生」の情報、すなわち現場からの情報ではないかと思う。情報は「平常時」においても集めることが大切だと述べた。現場情報こそまさに、その最たるものと言える。
(8)第一は経営者の目
中でも最もダイレクトで信頼できるのは、経営者が館内の様子をじかに見たり、お客さまとじかに話したりすることから得られる情報だ。しかもこれらは、その場で指示を出すことで改善に直結することもできる。つまり捉えた情報が寝かされることなく、即刻生かせるのだ。だから筆者は旅館の経営者に、できれば毎日、最低でも週に1度は館内を見て回ること、また月に1度は自館の料理を普通に食べてみること、タイプの違う客室に泊まってみることをおすすめしている。
(9)スタッフからの情報
それでも経営者1人の目には限りがある。そこでもう少し範囲を広げたところにあるのが、お客さまとスタッフの声である。お客さまの声の代表的なものは、アンケートやネット上のクチコミであろう。これらにしっかり向き合うべきことは言うまでもない。ただしこれらに書かれているのは、現場で起きていることの、ごく一部にすぎない。そこでもう一つ重視したいのが、スタッフを通して上がってくる情報だ。スタッフ自身が気付いたこと、お客さまが見せた反応やスタッフに語ったことなど、拾い上げていけば改善ヒントの宝庫となる。貴館では、こうした意見をくみ上げる場や仕組みがあるだろうか?
(10)良い意見を戦略に
ところで、こうした意見には、喜ばれたことやお褒めの言葉といった「良い意見」と、苦言や不満・不具合の指摘といった「悪い意見」がある(意見そのものの「良い・悪い」を言っているわけではない)。一般に、悪い意見は問題を知る手がかりとなるので、比較的真剣に検討され、時に改善策が講じられる。これは当然のことだろう。
一方で良い意見は、通常あまり意識されることがない。「言われて当たり前、それがふつう」という扱いで読み(聞き)流されることが多い。
ここで少し逆説的な提言を申し上げたい。このように、「良い意見」として上がってくることは当館の「良さ」であり、もしかすると「特長」、さらには「強み」と言えるかもしれない、ということだ。だから一つ一つは小さな声でも、それがたびたびあるなら、「そこをもっと強化することで、当館の価値を高めることができないか?」と考えてみることをおすすめしたい。
またそれを推進するための具体策などを、スタッフにも求めてみよう。「良いところをさらに良く」―こういうお題は割と意見も出やすく、実際の取り組みもすんなり入っていける場合が多い。
これは「強みに磨きをかけてより強くする」ということである。「攻めの戦略」として位置付けることも、あながち絵空事ではない。「強みを伸ばす」は経営戦略の定石、王道なのだ。
(リョケン代表取締役社長)