【旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 160】新型コロナウイルスへの経営対応47 原理原則3 品質向上 佐野洋一


「『…頼みの経営』から抜け出す」ために掲げた七つの「原理原則」のうち、「市場開拓」と「顧客確保」について、回を重ねお伝えしてきた。今回より次なるテーマ「品質向上―劣化を放置しない、磨きをかける」に移りたい。

 まずは品質を重視することの重要性について。

 (1)戦略としての品質重視経営

 「品質」というと地味な守りのイメージがあって、商売の好転にはあまり結び付かないと思われるかもしれない。確かに「品質の確保」は一般に、商売の必要条件であって十分条件ではない。だが裏返せば、その必要条件すら整っていないために、商売の大きな足かせとなっている場合も多い。望ましい収益体質を目指すなら、高品質は確保されるべき普遍的なテーマなのである。

 だがそれだけではない。旅館商売では、「品質重視経営」が立派な戦略として成り立つと考えたい。なぜなら、旅館における品質追求とは、機能や精度、鮮度といった物質的な次元にとどまらず、五感を通して伝えられる総合的な完成度という、終わりのないテーマに行き着くからである。

 (2)攻めの品質

 品質の向上には二つの観点がある。一つは「あるべき品質の確保」―すなわち「良い状態」を守るという観点、もう一つは「品質基準の向上」―すなわち「良い」とするスタンダードレベルそのものを高める観点だ。前者が「守りの品質=品質保持」であるのに対し、後者は「攻めの品質=品質創造」と言うことができる。どちらも大事であり、ここから先の話でも両面を見据えていくつもりだが、ひとまず「攻めの品質」という概念もあることを頭に置いていただければと思う。ただし、どこまでが「守り」でどこからが「攻め」に当たるか、これは旅館によって大きく違う。

 つまり、「ここまでは整っていて当然」のレベルに、旅館によって大きな違いがあるのだ。

 ここで言う品質とは、単に物的な欠陥のある・なしだけを指さない。例えば…。

 フロントやロビー周りが雑然とした感じの旅館がよくある。掃除ができていないわけではないが、場にそぐわない棚などの什器、なくてもよさそうな飾り物、カウンターの上に無造作に置かれた物品、掲示物の多さといったことによる。このようなところでは、とりあえず余計なものを取り去って端正な空間にするだけでも「攻めの品質」追求となる。一方、もともと品格ある空間となっているところが、これを良い状態に保つだけなら「守りの品質」にすぎない。

 言いたいのは、それぞれの「これが普通」というレベルを出発点に、そこから抜け出すこと、「今よりもっと良い状態」を目指すことが「攻めの品質」になるということだ。品格が整っているなら整っているなりに、より繊細な感性を表現するとか、あるいはそこに躍動感を加えるようなオブジェを据えてみるといったことが、次に目指す品質ステップとなるかもしれない。

 一口に品質と言っても、その対象とすべき分野は広く、その気で追求すれば奥も深い。ここではフロント・ロビー周りの雰囲気を例に挙げたが、同じことはそれ以外の施設にも、料理やサービスにも言える。品質を、商売好転の手がかりとしてはいかがだろうか。

(リョケン代表取締役社長)
  

 
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