【旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 156】新型コロナウイルスへの経営対応43 原理原則2 顧客確保3 佐野洋一


 お客さまを「顧客」として取り込むことを目的に、「心」を取り込むための目の付けどころを、引き続き考えていきたい。

 (2)スキマ時間を生かす

 まず「わかりきったこと」を少しほじくり返してみる。

 旅館に泊まってすること=旅館から受ける便宜供与―は、究極的に「入浴、食事(夕・朝食)、睡眠」の三つである。これに会議とか、2次会、各種のアクティビティといったものが加わる場合もあるが、そうでない限り、旅館に宿泊する際の「暗黙の合意」としては、ひとまずこの三つと、これらに付随する要件が満たされれば良いことになっている。滞在時間が長い割に、旅館に泊まって「すること」の数は少ないのだ。

 ではそれ以外の時間は何をしているのか?…。周辺を散歩したり、売店をのぞいたり、あるいは部屋にこもってテレビを見たり、近ごろでは割と多くの人が、スマホでゲーム、動画、SNSなどに興じたりしているのかもしれない。「スキマ時間を生かす」とは、これらのアイドルタイムを「《予定外の価値》=《お客さまが予想していなかった価値》を生むチャンスタイム」と捉えてみることである。

 とはいえ、よく考えるとこのうち大半の時間は部屋の中にいたり、外に出掛けていたりするので、実際に接触可能な場面は、何かの目的で「動くタイミング」しかないことになる。そしてそういう場面は、それほど多くない。

 ・到着、入館時
 ・部屋への移動
 ・入浴の前後
 ・外出の前後
 ・夕・朝食の前後
 ・部屋から玄関への移動
 ・出発前、出発時

 こうした接触チャンスを捉えて何かをするためには、「その想定時間帯」に、「移動の必然的動線」となる場所で、接遇なり仕掛けを構えることである。
 さももっともらしく述べたが、実はこういう機会の活用は昔からある。売店前での「朝市」、湯上がりコーナーで夕方ふるまうみそ汁といったものだ。だが今、お客さまの「心」を取り込むという意図のもとに、改めてこの接触チャンスの生かし方を考えてはいかがだろうか。

 例えば…●到着時に地場の特徴的な食べ物を七輪であぶり、アツアツの状態で手渡しする。●夕食前のアペリティフを、そのための場を別に設けて行う。欧米のホテルなどではよくある演出だが、旅館にあってもおかしくない。●夕食後の余韻を楽しんでもらうため、デザートと飲み物をロビーラウンジで提供する。その際のムードによって、同じラウンジでも、昼間とは別の「体験価値」を持ち帰ってもらう。●入浴後のひとときを過ごす場所にあえて人を配して、飲み物などをふるまう。ここでお客さまの心を引き付ける力点は、飲み物自体よりも「会話」に置く。●朝のロビーで、スタッフがあいさつとともにカードマジックを披露する。そしてその後、キャンディを配る。

 かなり忙しい時間帯と重なるものもあるが、こういうところにかける手間は、一定規模以上の旅館なら、おそらく料理1品分に満たないコストで実現できるだろう。

 そして気を入れてやれば、ちょっとした料理1品分を大きくしのぐ印象をお客さまに植え付けることも可能なのである。

(リョケン代表取締役社長)

 
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