【旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 155】新型コロナウイルスへの経営対応42 原理原則2 顧客確保2 佐野洋一


 旅館の顧客確保策、そのうち、お客さまを「顧客」として取り込む方策について考えている。顧客として取り込むということはすなわち、お客さまの「心」を取り込むことだ。

 旅館が提供するのは「体験価値」であり、それによる印象は、お客さまの旅館に対する「心の傾倒度」に直結している。しかもその体験に費やされる滞在時間は、他のサービス業に比べても圧倒的に長い。このことが、旅館商売にとって「生かすべき強み」である―ということを前回述べた。ではそれを生かして、いったいどんな「取り込み方策」が考えられるか?

 なにもかも立派に整っているところなら、わざわざそんなことを考える必要などないかもしれない。しかし多くの旅館は必ずしもそうではなかろう。そのようなところでとるべき方策は、一口で言えば、「いかに印象に残ることをするか」である。

 (1)「…以外」のところで勝負する

 旅館に泊まれば、食事が供される、快適な客室があり、寝具が用意される、大きな風呂に入ることができる…といったことは、お互い「当然提供すべきもの」として認識されている。細かいことを言えば、これらに付随して、食事の場(空間)や箸の用意、各種アメニティ、清潔な布団やベッド、シャワーから適温のお湯が出るなど、およそ旅館で提供しているモノやサービスのほとんどは、予約の時点から「暗黙の約束」となっている。「やって当然」「やってもらって当然」のことなのだ。これらのコトやモノは、それだけでは残念ながら印象に残る体験価値にはつながらない。

 そこで考えるべきは、「暗黙の約束」以外のもの、つまりお客さまが予想していなかったものを盛り込むことである。例えば…

 ●寒い時期、部屋のお風呂に浮かべる「ゆず」を、チェックイン時にお客さまの希望によりお渡しする

 ●ファミリー客をお泊めする部屋に、季節にちなんだお子さま向けの「小さなプレゼント」を置いておく

 ●食事会場の入り口付近をわざと暗くし、両脇に「ろうそく」を並べてムード演出する(ただし火の用心!)

 ●予定された料理とは別に「ところてん」をワゴンで運び、目の前で突き出してサービスする

 ●布団の枕元に優しい香りの「匂い袋」をそっと置いておく

 ●あらかじめ切手を貼り付けた「絵はがき」とペンを部屋にセットし、旅先からのお便りを促す(むろん、はがきはお持ち帰り自由)

…など。

 念のため言っておくが、これらをする場合の最大のポイントは、「あらかじめ知らせないこと」にある。知らせたら、その瞬間からお客さまの頭の中で「やってもらって当然」に仕分けされ、価値は何分の一かになってしまうのだ。

 既にお気づきかもしれないが、じつはこのような考え方は、別段新しいものではない。それどころか、世間の評判を取っている旅館では、これと同じことを昔から考え、実践してきている。

 近年、「サプライズ」という言葉がもてはやされているが、さほど仰々しいものでなくとも、お客さまを喜ばせよう、楽しませようとする小さな「心づかい」や「心意気」が、お客さまの「心をつかむ」ことにつながるのだ。

(リョケン代表取締役社長)       

 
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