本紙でも紹介していただきましたが、2015年に刊行した「バリアフリー温泉で家族旅行」に大きな反響がありまして、先月に「続・バリアフリー温泉で家族旅行」を出版しました。発売間もなくから多くのマスメディアに取り上げていただきましてありがたい限りです。
私が「バリアフリー温泉」を提唱していることが広く伝わってきたのか、最近、お会いした旅館のご主人に、「山崎さん、ごめんね~。うちバリアフリー一切ダメなんだ。うちこそご高齢の方に入ってほしい温泉だけど、段差だらけだから…」と言われることが重なりました。謝っていただくことではございませんし、むしろそのような気持ちにさせてしまいまして申し訳なく思います。「バリアフリー温泉」のバリアフリーという言葉が、旅館にとって威圧感を与えてしまっているのは、私も自覚しています。もちろん客室やトイレなどの施設面でバリアフリー対応であることは大切ですが、私はそれらを厳密に考えていません。ハードのバリアフリーよりも、「大歓迎! 受け入れます」という旅館さんの意思表示、いわゆるハートのバリアフリーを私は重きを置く、ハートフルな旅館のことを指します。
そもそも完全なハードのバリアフリーなどありえません。例えば、右麻痺の人にとって、右側に手すりがあればそれがバリアとなります。1センチの段差すら足が上がらない人もいれば、3センチは上がるが5センチは無理、そんな方もいます。お客さんの体の状態は人それぞれです。それは人の顔のように、障害ではなく個性とお考えください。
だからちょっとした配慮が必要なのです。まずは予約の際に、お客さんの身体の状態を把握するのが大切です。前もって知ることで対応もできます。またあれば便利な物もあります。車輪カバーです。客室の畳を傷めないように、車椅子の車輪にカバーをかければ、お客さんも気遣いなく旅館を楽しめます。ベッド回りに可動式の手すりの用意があるとさらに心強いです。
そしてお客さんたちの一番の望みは温泉入浴です。「いつも狭いお風呂しか入れないから、せっかくだから大浴場に入りたい」、そう望まれるお客さんもいます。例えば、チェックイン前やチェックイン後に1時間ほど、大浴場を貸し切りにして下されば、お客さんと家族みんなで温泉に入ることができます。
それらはバリアフリーではなく、バリアの軽減であり、バリアレス。今、旅館さんへお伝えしたい「バリアフリー温泉への最初の一歩 5か条」を考えていますので、また来年、本連載で記していきますね。
(温泉エッセイスト)